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F1序盤の全4戦を徹底分析。
マシンよりチーム戦略で差が出てる!?
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byHiroshi Kaneko
posted2010/04/27 10:30
中国GPの表彰台に立つ勝者のバトンと2位ハミルトン、3位ロズベルグ。マクラーレンのチーム代表であるマーティン・ウィットマーシュも喜ぶ
中国GPもなんとか終わったということで、開幕4戦を思い出しがてらおさらいしてみる。
中国GPではレースのスタート時を狙いすましたように雨がやって来て、その後の各チームの雨への対応で、勝敗が分かれることとなった。
オープニングラップ。リウッツィがブエミ、小林可夢偉を巻き込むスピンをしでかす。その排除処理の間にセーフティカーが出動。この時、ドライタイヤのままステイした組と、雨は降り続くという天気予報に素直に従ってチョイ濡れ用のインターミディエイト・タイヤに換えた組に分かれた。
結果論でいえば雨は止んでしまい、インターミディに換えた組はもう1回ドライタイヤへの余分な交換が必要となった。タイヤを換えなかったバトンが優勝、ロズベルグが3位。タイヤ交換組ではハミルトンが最高位の2位。前日の予選で最前列を奪ったレッドブルはベッテル6位、ウェバー8位に終わっている。当然、彼らも1回余分に換えた組だった。
非情な采配で好成績を残したロス・ブラウンの優秀さ。
中国GPの勝敗を決めたのはマシンの絶対的な速さでもドライバーの超絶技巧のテクニックでもなく、チームのタイヤ交換戦略。こういう場合はこうするというというシミュレーションは各チームあらかじめ立てているが、とっさの対応にどうしても差が出てくる。
ワン・ツーを飾ったマクラーレン、3位、10位(シューマッハー)を得たメルセデスGPはセーフティカー出動中に1台をピットに入れ、1台をコース上にステイアウトさせた。
雨の状況がどう転んでも1台は上位で生き残れるようにしたのだが、見方を変えれば1台を捨て駒に使ったともいえ、今回の場合ハミルトン、シューマッハーが捨て駒になったということだ。シューマッハーは週末の間、どうしても走りが決まらず、切るならこっちと瞬時に冷酷な判断を下したロス・ブラウンはさすがと言える。
もっとも交換か無交換か、そのどちらが捨て駒かはそう単純には決められないもので、セーフティカー出動直後に雨が降っていた事実を考えると、マクラーレンの場合だと実はバトンの方が見切られていたという考え方もできるのだが。
マクラーレンの勝負強さがバトンの快進撃を支える。
そういえば、バトンがシーズン初優勝を飾ったオーストラリアも雨がらみ。1コーナーでアロンソと当った後ハンドリング不調に陥ったバトンは、早目のピットインをしている。そこでチームはインターミディエイトからドライタイヤに交換。ピットアウト直後にコースオフするほど路面は濡れていたが結局はドライ交換が正解ということになり、バトンのペースが一気に上がるのをみたライバルたちが我先にとピットインした結果、バトンは労せずしてベッテルに次ぐ2位のポジションにつく。そしてその後に……首位独走だったベッテルのリタイアが待っていたのだ。
禍福はあざなえる縄の如し。
災い転じて福となすを地で行ったようなバトンの開幕4戦2勝だが、窮地に陥った時に思い切った手を打ってオセロゲームの駒の白黒を一挙にひっくり返すことができたのは、マクラーレン・チームの判断の良さであり勝負強さがあったからだろう。バトンがドライバーズ・チャンピオンシップの、マクラーレンがコンストラクターズ・チャンピオンシップの首位に立ってヨーロッパに戻れるのは、この勝負勘の良さゆえである。