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<チームメイトが好敵手> ハミルトン×バトン 「二人の王者の密かな不安」
text by
船田力Chikara Funada
photograph byMamoru Atsuta
posted2010/04/21 06:00
ハミルトンに吹き始めた、予想だにせぬ逆風。
しかし他方では、ともすればバトンに不利に働きがちな要因、控えめな性格やハミルトンがマクラーレンの寵愛を受けてきたという事実が、むしろハミルトンにとって逆風になるのではないかと指摘する声もある。
まずメディア関係者やイギリスのファンについていえば、「ナイスガイ」のバトンの方が圧倒的に受けがいい。かつてハミルトンに好意的だったイギリスのメディアは、ハミルトンがデビューしてからいくらも経たないうちに、ことごとくアンチ・ハミルトン派に転向してしまった。
またチームに大事にされてきた分だけ、ハミルトンは、自分でレースを組み立てていくスキルに乏しいという欠点も抱えている。その事実が明らかになったのが、今季第2戦のオーストラリアGPだ。
スタート前に雨が降ったために、各車はウエットタイヤでスタート。途中でハミルトンはドライタイヤに交換した後、一時3番手まで追い上げる。だがハイペースで走り過ぎたために摩耗が進み、もう一度タイヤ交換を行なう羽目になった。最終的にはウェバーに追突されたのが響いたが、ハミルトンがタイヤの使い方を誤ったのは明らかだった。
ただし本人にその自覚はなかった。しかもレース後には、2回目のタイヤ交換の件でチーム批判を展開したのである。
「スタッフが戦略を間違ったせいで、結果を出せなかった。なぜあそこでタイヤを交換する必要があったのか、僕にはわからない。
僕はタイヤ交換のタイミングを自分ではほとんど決めない。簡単なことじゃないし、自分の前や後ろでなにが起きているかは、チームの方がわかっているはずだから」
性格も戦略も正反対の二人は並び立つことができるか。
対照的にバトンは、自らの判断で早めにタイヤ交換を指示。これが移籍2戦目での勝利につながった。
「僕は自分で戦略を立てるのが好きなんだ。チームは映像やデータで状況を把握できるけど、コースやマシンの状態を一番感じ取れるのは、やはりドライバーだと思う」
第3戦のマレーシアGPの決勝はハミルトンが6位、バトンは8位で完走。第4戦の中国GPでは、バトンとハミルトンでワン・ツーフィニッシュを決めた。ドライバーズランキングでは、3位のハミルトンと11ポイント差でバトンがトップをゆく。
はたして二人はどのような戦い模様を描いていくのか。一つだけ言えるのは、ハミルトンを中心に吹いていたチームの風向きが、微妙に変わりつつあるということだ。