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<チームメイトが好敵手> ハミルトン×バトン 「二人の王者の密かな不安」
text by
船田力Chikara Funada
photograph byMamoru Atsuta
posted2010/04/21 06:00
「今回は同じことが起きないと信じている」とロン・デニス。
ちなみに当時のチーム代表ロン・デニスは、このような見方を真っ向から否定する。
「セナとプロストは育った文化も言葉もまったく異なっていた。だがルイスとジェンソンの場合はそうではない。ドライビングのスタイルは違うが、二人はいいコンビだと思う」
ロン・デニスの後継者となったウイットマーシュも言葉を継ぐ。
「自分がこのチームに来たのは、まさに『セナ・プロ対決』の渦中だった。強烈な個性がぶつかりあうとはこういうことを指すのかと、つくづく思い知らされたよ。
今回は同じことが起きないと信じている。チームは、ジェンソンとルイスを完全に平等に扱っているからね」
アロンソはハミルトンを優遇するデニスに愛想を尽かした。
ただしウイットマーシュの元でも、過去にドライバー同士のトラブルが起きなかったわけではない。彼は2004年から現場の指揮を執るようになったが、3年前にはアロンソとハミルトンの間で、似たような諍いが生じているからだ。
アロンソは2年連続タイトル獲得という実績を手土産にルノーから移籍してきたが、マクラーレンがF1にデビューしたばかりのハミルトンばかりを優遇することに幻滅。わずか1年限りでチームと袂を分かっている。
当時のマクラーレンで、ハミルトンを溺愛するデニスが最終的な決定権を握っていたのは事実だ。だがアロンソの離脱に関しては、ウイットマーシュも誹りを免れない。
バトンとハミルトンを同格に扱うと明言しているものの、もしその方針が徹底されなければ、バトンはアロンソと同じように臍(ほぞ)をかむことになるだろう。
性格的に見ても、バトンが損な役回りを引き受けさせられる危険性は十分にある。ハミルトンとバトンでは、エゴの強さが天と地ほども違うからだ。
デビュー以来、ハミルトンは常に何かしらのトラブルを起こして物議を醸してきた。'07年シーズンのアロンソとの確執しかり。'09年のオーストラリアGPで、レースの審判員に偽証を行なった事件しかりである。さらには相手を抜く際のえげつないライン取りなども、しばしば槍玉に挙げられる。
対照的にバトンは典型的な「ナイスガイ」として知られている。チームメイトと衝突したようなこともないし、エゴイスティックなところも見受けられない。BARホンダ時代には、エンジニアから「クルマのここが悪いとか、はっきり文句を言ってもらったほうがいい」などと言われたほどだ。