青春GOLF ――石川遼に密着! BACK NUMBER
なぜ石川遼は涙を見せたのか?
マスターズが狂わせた18歳の心。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKYODO
posted2010/04/14 10:30
昨年は73位で、今年は49位タイで予選落ち……。その涙は来年の強さを約束しているはずだ
予選通過という現実的な目標が失わせた本来の積極性。
2度目のマスターズを迎えるにあたって、石川は常に予選通過が目標と言い続けてきた。それはマスターズに敬意を表し、大会のレベルと自分の実力を見つめた上での冷静な判断だったはずだ。しかし、現実的な目標を設定したがゆえに最後の場面で持ち味の積極性が薄れてしまった。
いつものポリシーに従って1つでもスコアを伸ばそうとしていたなら、最終ホールはともかくとして、残り5ホールの時点で「ここから全部パーなら予選を突破できる」とは考えなかっただろう。もちろんそれはマスターズという特別な舞台が放つ磁場でもあるのだが、前日まで「予選通過は44位まで? 中途半端な数字だな」と通過ラインすら知らなかった池田が結果として決勝ラウンドに残ったのも象徴的なことに思えた。
「今まで予選を通過しようという気持ちでプレーしようと思ったことはなかった。ティーグラウンドに立ったら、限りなく少ない打数で上がるのが僕のゴルフの大きな目標。それなのに18ホールすべてでバーディーを狙っていくゴルフが最後の数ホールでできなくなった」
ホールアウト後、テレビインタビューで中嶋常幸から励ましを受けて涙を流したのは、2日間で1打届かなかったことを嘆いたわけではない。1年間の歳月をかけて磨き上げた自分のゴルフを土壇場で貫けなかった心の弱さに泣いたのだった。
「精神面の課題ってものが明確になりました」
健闘した。しかし、結果は残せなかった。翌日に帰国した石川はすっきりとした表情で次なる挑戦を見すえていた。
「特別にこのショットがまったく通用しなかったというのはなかったし、1年間の練習は間違ってなかったと思います。去年は技術も気持ちの部分もどちらも足りなくて、技術の何が足りないのか、精神面で何が足りないかが明白にならなかったんですけど、今年は技術が進歩した分、精神面の課題ってものが明確になりました。
技術的には優勝争いできるようなものを僕はもっていません。でも、今度は優勝争いすることを目標にしたいですね。僕のレベルだからこそ、それぐらいの気持ちを持たないといけない」
予選落ちした選手がその翌日に優勝争いという言葉を使って次回への抱負を語る。荒唐無稽ではあるが、そもそも石川の挑戦は小学校の卒業文集に書いた「20歳でマスターズ優勝」という途方もない夢から始まっているのだ。
来年の4月、再び出場権を手にできたなら、日本での試合と同じようにスリルと躍動感に満ちた石川遼のゴルフが、オーガスタでも見られることを期待したい。