MLB東奔西走BACK NUMBER
「今年死ぬかもしれないですね」
黒田博樹が語るヤンキースでの覚悟。
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2012/02/18 08:02
昨シーズンはドジャースで13勝16敗、防御率3.07と安定した成績を残した。MLBでの過去4年間の通算成績は41勝46敗、防御率3.45。ヤンキースでも先発投手として2桁勝利が期待されている
メジャーでの実績が名門チームに認められた意義。
これまでヤンキースは、前田勝宏投手を皮切りに多くの日本人選手と契約してきたが、すべて日本球界から直接獲得してきていた(今オフの岡島秀樹移籍はあくまでもマイナー契約なので)。
だが今回の黒田は、メジャーの他チームに在籍した後でヤンキースに移籍する初めての日本人選手になるのだ。このオフの動きをみても理解できるように、日本人選手の評価が軒並み下がり気味になっているのは、彼らの日本での成績を少なからず疑問視しているからだろう。
にもかかわらず、獲得資金に余裕がなかった(これまで多くの大物選手と大型複数年契約を結び年俸総額が逼迫していた)ヤンキースが、それ相応の年俸を用意して黒田を迎え入れたのは、この名門チームが心の底から彼の実力を認めたからに他ならない。
これまでの歴史をみてきても、ヤンキースが長年に渡り常勝軍団でいられたのは生え抜きの育成以上に、各チームのスター選手たちを次々に獲得してきたからだ。
サバシアを筆頭にアレックス・ロドリゲス選手、マーク・テシェイラ選手など現在の主力選手の多くは他チームから移籍してきている。さらに過去に遡れば、デビッド・コーン、ロジャー・クレメンス、ジェイソン・ジアンビ等々、当時の絶頂期の選手たちを他チームから獲得してきている。今回の黒田も、まさにヤンキースの屋台骨を支える主力選手としての期待を背負わされているのである。
更なる高みへと誘う、一流アスリートの“性”。
昨シーズンが終了した時点で、黒田の中での2012年シーズンはまったくの白紙状態だった。本人も改めて認めていたが、日本球界復帰という選択肢もあったという。それがメジャー残留ということに落ち着いたのは、ヤンキースというチームの存在だけでなく、投手というより一流アスリートとしての“性”が理由だったようだ。
「自分の中で考えることがたくさんありまして……その中で(またメジャーで)トライしたい気持ちが強くなったのが一番ですかね。せっかくここまで4年間苦しみながら積み上げてきた。そして、自分が4年間やってきたことを評価してもらって、たくさんのチームからオファーがもらえたということで、それを振り切って(日本球界に復帰する)というのが自分の中ではなかったんですね」
すでにこのコラムでも何度かレポートしているように、黒田はメジャーの環境に適応しながら、自分の投球を確立していった。だからこそ、年を重ねるごとに成績を上積みしていくことに成功したのだ。そうした投球術を手に入れたことで、更なる高みを目指してみたいという姿勢になるのは、アスリートなら当然だろう。