MLB東奔西走BACK NUMBER
メジャー4年目の黒田が完成間近の、
至高にして変幻自在の投球術とは?
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2011/04/19 10:30
黒田は4月3日に行なわれたジャイアンツ戦に今季初登板。7回6安打3失点ながらも勝利し、シーズン初登板を4年連続勝利で飾った
今シーズンも開幕直後よりアメリカ大陸を横断しながら、精力的に取材活動を行なっている。カンザスシティ→タンパ→アナハイム→サンディエゴ→アナハイムと回り、気がついたことがある。それは、すべての球場で国歌斉唱の前に東日本大震災の被害者のために黙祷が捧げられ、義援金を呼びかけるアナウンスが流されているのだ。
日本人選手所属の有無にかかわらず、当たり前のように行なわれるMLBを中心とした各球団の支援活動は今も連綿と継続されている。現場にいる日本人として日々、胸が熱くなる。
さて今回は開幕から順調なスタートを切った日本人選手を取り上げたい。ここまで3試合に先発し、開幕からの2試合ではそれぞれ好投を演じ連勝したドジャースの黒田博樹投手だ。昨年10月にこのコラムで、黒田がメジャーで通用する投球を確立したと論じたことをご記憶だろうか。
オフに日本球界復帰も噂されながら最終的にドジャースと再契約。その時から、今シーズンは黒田にとって過去3年のメジャー経験で築き上げた彼の投球の集大成に位置づけられると個人的に感じていた。そして開幕からの2試合(3試合目は惜しくも敗れたが)で、まさに黒田の真骨頂ともいうべき投球を披露しているのだ。
MLB4年目にしてたどり着いた“無形”という“型”。
黒田が確立した投球を一言で表現するならば、“変幻自在の技術に裏打ちされた安定”だ。それを黒田本人の言葉で説明してもらうと以下のようになる。
「その日の調子である程度バッターと駆け引きしながらゲームをつくっていくというのが、先発として一番大事なところだと思う」
かつての野茂英雄のように明確な勝負球を武器にする自分の“型”を持たずに、その時々の調子に合わせ軸になる球を探しながら打者と対峙しているのが現在の黒田なのだ。
3年ぶりの完封勝利をあと一歩のところで逃した4月9日のパドレス戦でも、黒田本来の球速はなく、さらにカッターも今一つの出来だった。しかしながら、その状況下で他の変化球を見せ球にしながらツーシームを丁寧にコーナーに投げ分けながら勝負していた。試合後に理想の投球を10として自己採点してもらったのだが、「7、8とはいいたくない」とずいぶん厳しい評価で、投球内容そのものは決して本人を満足させるものではなかったことが分かった。
黒田の持ち球はカッター、ツーシーム、スライダー、フォークがあり、さらに今年からカーブを加えた。今後も登板ごとにこれらの出来を見極めながら勝負球を変えていくことを目指す。
変幻自在とはいえ黒田の投球スタイルは、150キロ前後の変化する速球と変化球を駆使しながら打者のタイミングを外していくというベースがある。この系統の投手で、現在メジャーで最高の投手だと考えられているのがロイ・ハラデーになるだろう。