フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
なぜ高橋大輔はチャンに完敗なのか?
ふたりの天才の結果を分けたもの。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byGetty Images
posted2012/02/13 11:25
2位に終わった高橋大輔はチャン(写真中央)に対して「冷静にみて、かなりの実力差はある」とコメント。ソチ五輪へ向けて「焦らずに今後の2年間で(チャンとの差を)縮めていきたい」とした
“音楽表現の天才”高橋大輔はもっと評価されるべき!?
それはひとまずおいておくとして、果たしてこの30ポイント差というのは妥当なものなのだろうか。
技術的なポイントの差は、仕方ない。子供の頃から競技スキーもやっていたというチャンは、スピードを恐れるということを知らない。まさに坂道の急傾斜を突っ込んでいくような勢いで、30×60メートルの銀盤を風のようにふっとんでいくのである。その勢いを生かしたジャンプは、飛距離も高さも申し分ない。
だがその一方で、高橋は彼にしかないものをたくさん持っている。
特に彼の持つリズム感、体を使った音楽の表現というのは天才的と言っていいレベルだ。後にも先にも、世界で真似をできる選手は一人もいないだろう。
これは本来、5コンポーネンツに反映されるべきものだ。SP、フリーを通してインタプリテーション(音楽表現)、パフォーマンスあたりは、高橋のほうのポイントがもっと出ていてもよかったのではないか。9点台が並んでも少しもおかしくない演技だという声は、海外のプレス関係者たちからも聞こえてくる。
国を挙げて国内外にチャンの凄さをアピールするカナダ。
「カナダのスケート連盟は、裏でも表でも政治的なことをしてくる。日本も少しは努力したらいいのに」
ある米国のベテラン記者は、そう口にした。この「政治的」というのは、必ずしも不正行為という意味ではない。
たとえば1月のカナダ選手権で、カナダのジャッジたちはパトリック・チャンにSPで101.33点、フリーで200.81点、総合302.14点というとてつもない点数を出した。もちろん演技の内容も素晴らしかったし、国際大会より国内のほうが甘目の点がでるというのは、カナダに限ったことではない。それにしても、よくぞまあここまで出したものよ、という点だった。
こうしてカナダの連盟は、チャンの凄さを海外のジャッジ、スケート関係者たちにアピールしているのである。国内選手権は、いわば海外に向けた自国選手のPRの舞台でもあるのだ。