スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
ペペ暴行が示したマドリーの問題点。
勝ち続ける必要があるモウリーニョ。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byUniphoto Press
posted2012/01/25 10:30
国王杯でピッチに倒れこむメッシ(中央)と手を踏んだぺぺ(右端)
モウリーニョを盲信するレアルのペレス会長。
しかもレアル・マドリーの最高指導者であるフロレンティーノ・ペレス会長は、打倒バルサを可能にする唯一無二の存在と信じて疑わないモウリーニョのことを盲目なまでに信頼している。ゆえに彼はチーム強化の全権にとどまらず、100年以上にわたり培ってきたクラブのアイデンティティまでポルトガル人監督の手に委ねてしまった。
もはや今のレアルに「紳士のクラブ」という哲学は存在しない。
勝つための手段は選ばず、チームに損害を加える対象がいれば、それが誰であれ攻撃する。勝利を手にするために邪魔となるのなら、紳士性やスポーツマンシップ、プレーの美学といった綺麗ごとは一切必要ない。ペペの愚かな行為は、そんなモウリーニョの生き方を表す出来事だったと言えるかもしれない。
どこまでも勝ち続けないと正当化されない……その苛烈な生き方。
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だが、その生き方は勝利を伴ってこそ正当化できるが、そうでなければ誰も認めてはくれない。
先のクラシコでモウリーニョは、ホームにもかかわらずボール支配を放棄し、守備を固めてカウンターを仕掛けるアウェー戦術に徹しながらリードを保てなかった。問題の暴行を行ったペペと共に、彼が非難の集中砲火を受けたのは言うまでもない。
モウリーニョとの心中を覚悟しているペレスとは違い、ファンとメディアはモウリーニョに託したレアルの未来に対して疑問を抱きはじめた。これまでほぼ一貫してモウリーニョを支持してきた『マルカ』紙は22日、練習中に生じたモウリーニョとセルヒオ・ラモスの口論の一部始終を匿名記事で掲載し、レアルのスペイン代表組とモウリーニョとの間に亀裂が生じたと報じた。
また先のビルバオ戦の終盤、ゴール裏のラディカルなファンが「ジョゼ・モウリーニョ!」と歌いはじめると、その他の大多数のファンから大きなブーイングが湧き起こった。モウリーニョが監督をはじめて以降、ホームのサポーターからブーイングを受けたのはこれが初めてのことだという。
彼らの疑問を取り払う方法はただ一つ、勝ち続けるしかない。それ以外に自らの価値を証明する術を知らないモウリーニョは、再びマドリディスタの信頼を勝ち獲ることができるのだろうか。