スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
ペペ暴行が示したマドリーの問題点。
勝ち続ける必要があるモウリーニョ。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byUniphoto Press
posted2012/01/25 10:30
国王杯でピッチに倒れこむメッシ(中央)と手を踏んだぺぺ(右端)
しらを切るぺぺをどこまでも擁護するモウリーニョ。
ただ、審判は欺けても世論は欺けない。同じ過ちを、しかも故意的に繰り返すペペにさすがに見切りをつけたか、今回ばかりはバルセロナ寄りのカタルーニャ系メディアのみならず、マドリー系メディアも揃って批判的な立場を表明。規律委員会だけでなく、雇い主のレアル・マドリーもしかるべき処分を科すべきとの見解を示した。
こうした世論の圧力を受けたレアル・マドリーは、試合翌日になりクラブの公式HPにペペの謝罪動画を掲載する。しかし、これがまた火に油を注ぐ代物だった。
「あれは偶然の出来事だった。それでもメッシが暴力を受けたと感じたのなら謝りたい。自分はチームとクラブを守るために心身を捧げて戦っている。他の選手を傷つけようなんて考えが頭をよぎったことは一度もない」
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まず驚かされたのは、「偶然の出来事」という言葉だ。また無表情に淡々と語る様子はただ用意されたセリフを読み上げているといった印象で、反省するような態度には見えない。もちろん、このような言い訳を真に受けた者などいなかった。ただ一人を除いては。
その翌日、アスレティック・ビルバオ戦の前日会見に臨んだモウリーニョは、執拗に繰り返されるペペに対する質問に対してこう切り返した。
「ペペは既に発言した。私にとってはもう十分だ。君達は昨季ある選手が人種差別的発言を行った際、事実を否定したその選手のことを疑わなかった。UEFAを含め、あらゆる人間が彼のことを信じた。ペペは故意的ではなかったと言った。もし彼が故意的にやったと言うのなら腹だたしいことだが、そうでないと言ったのなら私は信じる。ペペが嘘つきだと言いたいのなら言えばいい」
彼は昨季のクラシコでマルセロに「モノ(猿)」と人種差別的発言を行ったとされるバルサのブスケッツがお咎めなしに終わったことを引き合いに出し、「偶然」と主張するペペを無条件で擁護したのである。
モウリーニョが暴力をふるうのならペペもふるう……ということか!?
昨年8月のスーぺルコパにて、モウリーニョはバルサのビラノバ第2監督に目つぶしを見舞い、規律委員会から2試合のベンチ入り禁止処分を科された。問題の行為について彼は、「レアルの関係者に対してのみ、先の試合で見せた態度について謝りたい」というひねくれた謝罪文をクラブのHPに掲載しただけで、バルサやビラノバに対する謝罪は一切行わなかった。もちろんクラブは彼に何の処分も科していない。
そんな男がスポーツマネージャー兼監督としてチームの全権を握っている以上、ペペがクラブ内で罰せられることはないだろう。もし彼が何らかの処分を受けるのであれば、モウリーニョも同様の扱いを受けなければ筋が通らないからだ。