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感情を表に出すだけが「闘志」なの?
内田篤人の特殊事情と復活の可能性。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byGetty Images
posted2012/01/21 08:01
今季リーグ前半戦、シャルケは3位と好調だったが、内田自身は5試合の出場にとどまった
内田に対してなぜ指揮官は怒りを露わにしたのか?
ボールがサイドラインを割ったとき、内田がボールを拾いにいかなかったのは、相手ボールだと思ったからだ。昨年の2月28日の練習でも似たようなシーンがあった。このとき内田はすぐにボールを獲りに行き、スローインをしようとして、サブ組の選手に手をはたかれている。それは、サブ組チームのボールだったからだ。ステフェンス監督に怒られたとき、内田がすぐにボールを拾いにいかなかったのは、サブ組チームのスローインだと思っていたからに過ぎない。監督の誤解だ。
あるいは、紅白戦で倒してしまった相手選手に手をさしのべることも特別変わった光景ではない。シャルケに限らず、ライバル・ドルトムントの紅白戦でも見られるワンシーンだ。
理不尽にも見えるこれら2つのシーンにおける監督の行動には理由がある。内田は気持ちを前面に出してプレーしないと、指揮官の目には映っているからだ。ステフェンス監督は、その前に指揮をとっていたラングニックのように戦術的に細かい指示を送るわけではない。闘う気持ちと姿勢を見せることを選手に強く要求する。
「監督から『オマエは、優しすぎる』と言われるんだよ」
「監督からはよく『オマエは、優しすぎる』みたいなことを言われるんだよね。『気持ちをもっと出しなさい』とも。俺、そんなに優しいのかな」
件の紅白戦が終わったあと、パパドプーロスやマティプなどが内田のもとに駆け寄り、なぐさめていた。ラウールは内田を呼びとめ、話しこんでいた。彼らは内田が熱いものを秘めた選手だということを知っている。
例えば、昨シーズンの開幕から1カ月がたったころ、左足小指を骨折した内田は、怪我が治りきる前から練習に参加して、鬼軍曹と呼ばれた当時のマガト監督をも驚かせている。
しかし、ステフェンス監督はそれを知らない。あるいは、知っていたとしても、自身の目で内田の闘志を確認できていない。