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感情を表に出すだけが「闘志」なの?
内田篤人の特殊事情と復活の可能性。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byGetty Images
posted2012/01/21 08:01
今季リーグ前半戦、シャルケは3位と好調だったが、内田自身は5試合の出場にとどまった
「サッカー選手が試合に出なかったら超、楽だね」
今から1年半も前のこと。内田がブンデスリーガにやってきた直後に、日本代表のチームメイトである長谷部がこんなことを話していた。
「ウッチーはね、そうは見えないかもしれないけど、熱いものを持っているヤツだよ」
内に秘めた「熱いもの」を伝えるためには、時間をかけてプレーする様子を見せていくしかないのか。内田はこんな話をしていた。
「まぁ、“ウシダ”がもう少し、荒々しくなっていければね……」
ただ、先に挙げた紅白戦でのクロスのシーン。これについては言い訳の余地はなかった。
相手チームにボールが渡れば、すぐに守備に戻らないといけない。ステフェンス監督が攻守の切り替えを早くするように強く求めていることも、内田は理解していた。
あれから2カ月ほどがたち、内田は当時の様子をこう振り返る。
「怪我から復帰したあと、気持ちでは頑張ろうと思っていたけど、体がついてこなかった。だから、あのころはモチベーションもズルズルと下がっていって……。でもさ、サッカー選手が試合に出なかったら超、楽だね。気持ちはきついけど、体は超、楽だね。」
内に秘めた闘志を監督に理解させるためには……。
日本が優勝したアジアカップからおよそ1年がたったが、アジアカップの舞台となったドーハでシャルケは冬のキャンプを行なった。短いオフを挟んでこのキャンプに参加していた内田の頬はずいぶんとシャープになっていた。
「キャンプで日本食から離れているせいだよ」
内田はそれ以上は口にしようとはしない。
しかし、今シーズン開幕前、長いオフを終えたあとに少しだけふっくらしていたころとは顔つきが全く違う。長いか、短いかの違いはあるにせよ、彼がオフをどういう気持ちで過ごしていたのかがわかる。
「最近よく、パパ(チームメイトのパパドプーロス)に言われるんだよね。『ウッシー、なんでオマエが試合に出られないんだ?』とか、『ウッシー、なんで自分を使ってくれないのか、監督に聞きにいかなきゃダメだろー!』とかね」
内田は苦笑交じりに「年下のアイツに言われるんだよ」と言ったあと、こう付け加えた。
「でもさ、オレ、チャンスってのは毎日の練習の中に転がってると思うんだよね。口で言うのは簡単なんだけど……」
監督のもとに直談判に訪れ、気持ちを説明するのか。それとも、練習で内に秘めた闘志を見せつけていくのか。どちらの道を選ぶのか、内田はまだ決めかねていた。