詳説日本野球研究BACK NUMBER
アマ球界にも蔓延するロースコア現象。
もしかすると大震災の影響かも!?
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/12/29 10:30
2011年夏の甲子園では投高打低の傾向の中、日大三の強力打線が爆発。計6試合で61点を叩き出し、10年ぶりの頂点に立った
東日本大震災による精神的な萎縮も得点減少の一因か。
得点が下がった理由は他にも考えられる。とくに大きな理由として考えられるのが、東日本大震災である。
震災直後、よく聞かれたのが「こんなときに野球をしていいのだろうか」という言葉。上原浩治(当時オリオールズ)は「もしやるんでも、照明を使わないでやるべき。被災地でも、寒さで凍えている人がいる。そんな人たちの感情を考えれば、明かりをつけて野球なんてやったらいかんでしょ」と言った。もっともな意見である。
しかし、この言葉の裏に隠されている、「野球“なんか”している場合じゃない」という後ろめたさ、精神の縮みが、プロに限らずアマチュア球界にも蔓延していたように思う。
高校、大学、社会人の主要大会の総得点は前年比減。
次のデータは高校、大学、社会人の2010年と2011年の全国大会における総得点の比較である。
<高校野球>
2010年選抜(春)の総得点256 → 2011年選抜の総得点267(31試合)
2010年選手権(夏)の総得点473 → 2011年選手権の総得点426(48試合)
<大学野球>
2010年大学選手権の総得点144 → 2011年大学選手権の総得点142(25試合)
2010年明治神宮大会の総得点52 → 2011年明治神宮大会の総得点45(10試合)
<社会人野球>
2010年都市対抗の総得点195 → 2011年都市対抗の総得点193(31試合)
高校野球の選抜大会を除くすべての大会で、得点は少しずつ前年を下回っている。まったく異なる大会にもかかわらずここまでデータが出揃うと、どうしても原因があると思わざるを得ない。東日本大震災の影響を考えないわけにはいかないのである。
ロースコア現象を解決するヒントは歴史の中にあり。
平時なら、野球をやっていれば自分が自分であることを証明できたが、震災や戦争という国家的な緊急事態に陥ると、あたかも野球は無力であるように喧伝される。
「野球は無力か」「自分は何者か」――これらの答えをいまだに探しあぐねているからこそ得点力は停滞し、ロースコアの試合が繰り返されていると思うのだが、答えのヒントは歴史の中に隠されている。
太平洋戦争が激化した1943(昭和18)年4月、敵性スポーツという逆風を受けて東京六大学連盟は解散を余儀なくされるが、同年10月16日、いわゆる“最後の早慶戦”(出陣学徒壮行早慶戦)が行なわれている。さらに敗戦後の1947(昭和22)年、ソ連のエラブカ収容所に拘置された1万人以上の日本人捕虜の中から早大、慶大出身者が集められ、やはり“早慶戦”が行われている。
野球は無力ではないし、野球によってアイデンティティを確立した人も数多い。先人の苦労、努力に思いを致し、どういう思いで野球に向かっていけばいいのか考えれば、答えはおのずから出てくるはずだ。