野球善哉BACK NUMBER
センバツ屈指の3人のエース。
一二三、島袋、伊藤の評価が変わる?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/03/30 19:45
興南・島袋投手は大会直前の不調が伝えられていた。
左腕トルネード投法から、最速148kmの速球と縦のスライダーなど3種類の変化球を操る興南・島袋洋奨は、実は大会前には不調が伝えられていた。現地入りしてから体調を崩していたからだ。大会前に割り当てられた甲子園練習も、ベンチで見守るだけで、彼の調整具合がうまくいってないことをうかがわせた。
ところが、大会が始まると島袋に風が吹いた。雨のために大会が2日延びたのだ。初戦の相手は強豪・関西で、エースの堅田裕太が島袋に次ぐ地区大会防御率を残していた好投手だったことを考えると、この2日の順延は大きかった。
投げ込みが不十分だった分、確かに本来のストレートの球速ではなかったとはいえ、昨年の春夏、そして今回と3季連続出場となった彼の経験値も大きかった。
ストレートを軸に、カーブ、スライダー、ツーシームを有効活用。9回10安打を打たれながら、無四球、14奪三振の1失点完投。圧巻だったのは6回裏のピッチングで、2番から始まる相手打線を3者連続三振に切ったシーンだろう。右打者の懐を厳しく突くピッチングは素晴らしかった。島袋はそのシーンをこう振り返る。
「あの時は6回表のこちらの攻撃が三者凡退になっていて、流れが悪かったんです。だから、もう一度流れを引き寄せるためにも三振を狙いに行きました」
経験値からくる投手としての感性――。
試合をトータルに考えてピッチングできるところは、彼の投手としての能力の高さを表すものである。2回戦の智弁和歌山戦では「全国的に有名なこのチームを倒せば、上にあがって行くための自信になる。試合が待ち遠しい」との気概で臨み、10安打を打たれながらも11奪三振完投。強打智弁和歌山の3、4番から計7三振を奪う力投だった。
まだ本調子ではない中でのピッチングらしい……末恐ろしい左腕だ。
試合終盤で記録した148km。帝京・伊藤投手は急成長!
昨夏、1年生ながらにして147kmのストレートを記録した帝京・伊藤拓郎も、大会前から注目された選手の一人だ。
優勝候補同士の対決となった1回戦・神戸国際大付戦で先発し、先に2点を取られながら中盤からリズムに乗ると、そこからはスキを与えず、味方の逆転勝利を演出。
当日は今大会の中でも特に寒い日だったが、試合終盤には148kmを計測、切れの鋭いスライダー、チェンジアップを使い分け、総合力の高さを見せつけた。2回戦の三重戦でも同じく2失点完投。
球速について、1年生で出した147kmと意味合いが違うのではないかと尋ねると、伊藤はこう話していた。
「去年はリリーフで投げて計測したものでした。今日(1回戦)はスピードを意識しなかったのですが、先発して、中盤以降に球速が出たのは自信になりました」