濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
F**Kの連呼で毒づくUFCのスター!?
ニック・ディアスの悪態と計算。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2011/11/08 10:30
10月29日、ラスベガスで行なわれた『UFC137』。ニック・ディアス(写真右)はB.J.ペンを金網に追い込み、常に主導権を握っていた。試合は3R、3-0の判定でディアスの勝利。敗れたペンは現役引退を表明した
「悪童」と「計算高いファイター」という二面性。
UFCへのカムバック戦となる『UFC137』(10月29日、ラスベガス)でも、ディアスをコントロールすることは不可能だった。
当初、彼はウェルター級王者のジョルジュ・サンピエールと対戦することになっていた。UFCとSTRIKEFORCEの王者対決である。ところが、ディアスは9月に行なわれた記者会見を無断欠席。ペナルティとしてマッチメイクは変更され、王座挑戦権はカーロス・コンディットに与えられた。ディアスにはB.J.ペンとの対戦が用意された。
この試合で、彼はライト級・ウェルター級の二冠を達成したこともあるペンに圧勝する。1ラウンドこそペースを握られたものの、2ラウンド以降は長いリーチを活かしたストレートとボディへのフックで元二冠王に金網を背負わせ続けた。試合終盤、ペンが反撃してくると蹴り主体にスイッチして間合いを遠ざけるというクレバーさも。ラウンド中に限って、ディアスは“拳の科学者”に変貌するのだ。
ただし、3-0の判定勝ちが告げられるとすぐに“BADASS”に戻った。その顔に浮かぶ感情は喜びではなく怒り。マイクを向けられると、「ジョルジュ(サンピエール)はどこだ? ヤツは俺から逃げたんじゃないのか!?」と吠える。カード変更の理由がそもそもなんであったかなどお構いなしだ。
“因縁”を加えた、マッチメイクの妙。
もちろん、ペンに勝利した以上、対戦をさまたげる要素はどこにもない。UFC首脳陣は大会直後にサンピエールvs.ディアスをあらためてマッチメイク。“因縁”という要素を加えた対決は来年2月、全米の注目が集まるスーパーボウル・ウィークエンドの大会で行なわれるという。ディアスはその実力と悪童ぶりで、試合のスケールそのものを大きくしてしまった。
ファイターの個性は、時にスポーツの枠をはみ出す。だがそのことで、UFCという舞台はさらに枠を広げ、ファンの支持を獲得し続けるのだ。