野球善哉BACK NUMBER
“つなぎの野球”ができない阪神。
ならば「1番・鳥谷」の積極打線を!
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byTamon Matsuzono
posted2010/03/19 10:30
2009年のシーズンは、安打、得点、打率、長打率、OPSでチーム1位を記録している。2010年から赤星に代わり阪神の選手会長に就いた
今年も優勝候補に挙げられるであろう阪神の打線が、噛み合っていない。オープン戦の調整段階だが、3月12日から14日までの3試合で4得点しか挙げられず、虎党のヤキモキしたストレスは日を追うごとに増幅しているような感さえある。
阪神にとってキーポイントとなる打順は2つある。これは過去のデータからも顕著に出ており、それらの打順に入る選手の活躍いかんで、優勝が左右されると言っていい。特に金本知憲が4番に定着してからはその色が濃い。
キーポイントの打順とは「1番」と「5番」である。
ただ、今季に限っては5番を心配することはさほどないだろう。城島健司の加入で打線に厚みが増しているからである。
何よりも重大なのは「1番」である。そう、昨シーズンまで赤星憲広が務めていた打順だ。
ここ数年のデータをみると、赤星の活躍が阪神打線のカギを握っていたことが分かる。赤星の出場試合数がそのまま阪神の成績につながっているのだ。'08年、赤星は144試合に出場し打率.317、出塁率.398、リーグトップの得点を記録した。終盤の大失速で優勝は逃したが、赤星を1番に据えた打線は機能していた。'05年のセ・リーグ制覇もしかりだ。
一方'07年は1番での出場が15試合だけであり、昨季は故障離脱することが多く、1番で出場したのは72試合しかなかった。切り込み隊長を失ったチームは浮上のきっかけをつかめないままに、シーズンを終えている。
赤星が引退してしまった今の阪神にとって、1番打者を見つけ出すことが最大の課題なのである。メディアの報道も、こぞって「ポスト赤星」として新外国人のマートンや新人の藤川俊介、育成枠の田上健一に期待を寄せる向きがあった。
誰にも埋められない「ポスト赤星」の大きな穴。
だが、ここで引っかかるのは1番打者が「赤星タイプ」と決められてしまっているところにある。阪神の1番打者が赤星の残像を描いたまま探されているということに、少し違和感を覚える。
赤星は類まれな才能と努力する心を持った選手だった。阪神の育成方針に沿って生まれた選手ではなく、彼の才能と努力の結晶で生まれた逸材である。入れ替わり立ち替わり出てくるような簡単な選手ではない。だから、これからの阪神を担う1番打者に赤星ほどの活躍をイメージするのは無理がある。
オープン戦のほとんどの試合で1番を任されているマートンは、12日の試合後のインタビューでこう語った。その試合、マートンは2安打1盗塁と気を吐いていた。
「僕には赤星選手のような活躍ができるとは思っていない。ただ、自分のできるプレーがどれくらいのものかは、きょうの試合でみてもらえたと思う」
マートンは赤星の代役ではない。柔らかいバットコントロールの際立つ好打者である。足は遅くないが、赤星ほど速くもない。そんな彼に「ポスト赤星」をあてがうことは的を射ていない。