ベースボール・ダンディBACK NUMBER
フィギュア採点問題で考えた、
プロ野球におけるカッコ悪さって?
text by
田端到Itaru Tabata
photograph byTakuya Sugiyama/Hideki Sugiyama
posted2010/03/16 10:30
昨年は3勝10敗と大きく負け越した福原。ちなみに故意四球の判定は、キャッチャーが立ちあがって“4球目”となるボールを投手が意識して投げた場合に出る
「難易度の高いジャンプを成功させた浅田真央はもっと評価されるべきだ。完成度の高さを追求したキム・ヨナより点数が低いのはおかしい」
バンクーバー五輪の女子フィギュアスケート、そんな意見が日本国中から沸き上がったのを見て、ついつい同意しつつも、微妙な違和感を感じてしまった。
4年前のトリノ五輪では、スルツカヤやコーエンが難易度を追求して失敗。荒川静香は難易度より完成度の高さを重視して金メダルに輝き、その戦略が褒め称えられたというのに、今度は「完成度より難易度を評価するべき」の大合唱となった。
「勝つための戦略」を支持するのか、「高みをめざす志」を評価するのか。
どちらが正解なのかは決められないが、観戦する側の立つ場所は定めておきたい。プロ野球においても、そんな選択を求められる場面は多数ある。そしてあくまで個人的な見解だが、「勝つための戦略」を追求するとプロ野球の場合、カッコ悪く見えることがよくある。
プロとしてこだわるべきは、勝利への執着か、面目か。
たとえば昨年のパ・リーグ、クライマックスシリーズ第2ステージ、日本ハム対楽天戦。
第1戦、緊迫した展開で試合は終盤。楽天の攻撃、2死二・三塁のチャンスで打席には首位打者・鉄平が入る。
さあ、この場面で“打ち取る難易度の高い首位打者”と勝負するのか、それとも鉄平を歩かせて、アベレージの低い次打者の山崎武と勝負するという堅実策を取るのか。
第2戦にはまったく逆の場面もあった。試合は1対1の同点のまま、終盤に突入。日本ハムの攻撃、2死二・三塁のチャンスで打席には稲葉篤紀が入る。マウンドには楽天のエース、岩隈久志。イナバジャンプに揺れるスタジアム。
さあ、この場面でジャパンの4番も務めた左打者と勝負するのか、それとも稲葉を歩かせて、次の右打者・高橋信二と勝負するのか。
判断の基準になるのは、勝負に対する価値観だ。
「プロなんだから、少しでも勝つ確率の高い戦術を選ぶべき」と考えるか。「プロは正々堂々と勝負するべき。目の前の難敵から逃げるような戦い方をファンは望んでない」と考えるのか。
もっときつい言い方をすれば、「カッコ悪い戦術でもいいから勝ちにこだわる」のか、「勝つ確率は下がるかもしれないけど、誇らしく胸を張れる戦い方を選ぶ」のか。