野球善哉BACK NUMBER
勝負所で“爽快な本塁打”を放つ男。
ヤクルト川端慎吾への大いなる期待。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/10/12 12:50
高卒新人の野手としては異例の一年目から一軍キャンプスタートで、さらには同年のシーズン後半に一軍試合出場も果たすなど、大いに期待されていた川端慎吾
川端らの世代は「全国どこに行っても逸材がいた」。
高校2年夏に甲子園出場を果たすと、当然のごとく注目を浴びた。
新チームになり、高校2年秋の近畿大会でベスト8に進出。センバツ出場を確かなものにすると、春のセンバツを控えた頃には、内野手の代表格としてスカウト陣の人気を集めていた。
当時、大豊作と言われていた川端の世代は、全国にたくさんの逸材がいた。近畿圏内では「浪速の四天王(T-岡田、平田良介、鶴直人、辻内崇伸)」と呼ばれる逸材がおり、後でプロに行った選手でも、横浜の山口俊や日ハムの陽岱鋼、楽天の片山博視、同じヤクルトの村中恭兵がいた。斎藤世代よりも前に、川端らの世代は「全国のどこに行っても逸材がいる」とスカウト陣が唸ったほどの黄金世代だったのだ。
ところが3年春のセンバツで、川端は予想以上の注目に力んでしまう。
1回戦の常総学院戦では、チームは勝利したものの、自身は無安打。2回戦の神村学園戦でも、相手エース・野上亮磨(現西武)に3打席まで凡退で力を発揮できずにいた。それが4打席目、川端は意地を見せる。1死一塁から、野上の初球ストレートを一閃。力みが抜けた柔らかいスイングで、打球は美しい弧を描いて飛んでいく爽快な本塁打となった。
「あの一発で人生が変わりました」ということを期待してしまう。
試合には敗れたが、この本塁打が川端にもたらしたものは大きかった。
同年8月末にアジアAAA選手権の代表に選出されたのである。夏の本大会出場を逃していた川端は、選ばれる可能性が低かったが、センバツの活躍で選出を果たしたのだ。
「JAPANにはセンバツでの一発で選ばれたんだと思います。夏の甲子園に行ってませんし、選ばれる理由がそれしか考えられませんでしたから。あの一発で人生が変わりました。JAPANの試合に行って優勝したから、プロにも行けたと自分では思っています」
東野から打った今シーズンの本塁打と、高校3年の春のこの本塁打が「似ている」と川端は教えてくれた。力みも無く振りきったスイングで、ライナー性の当たりではなく、高く舞い上がるような爽快な本塁打だったからだ。
「ホームランは狙わないですね。勝手に打球が上がってくれたらいいかな程度にしか思っていないです。ライナーで右中間を破る打球を打つのが一番の理想。そこから自然に打球が上がって、スタンドに入ってくれたら最高のバッティングです」
高校時代、川端自身が語った理想のバッティングは、プロの舞台でさらに磨きがかかっていた。
川端は先週の阪神戦から調子を崩している。不振に陥り、11日の中日戦では、ついにスタメンを外された。「打てる時も、打てない時もあるんで、前向きに捉えていきたい」と阪神戦のあとにはそう話していたが、主軸を任された選手にとって必然ともいえる試練を迎えているのだと思われる。
だが、それでも、期待してしまうのだ。
高校3年春がそうだったように、また、今季のこれまでがそうだったように。好機での爽快な本塁打で、一気に苦境を跳ね返すのではないか、と。