野球善哉BACK NUMBER
勝負所で“爽快な本塁打”を放つ男。
ヤクルト川端慎吾への大いなる期待。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/10/12 12:50
高卒新人の野手としては異例の一年目から一軍キャンプスタートで、さらには同年のシーズン後半に一軍試合出場も果たすなど、大いに期待されていた川端慎吾
若手選手のブレークの兆しは試合前を見ればいい。
そんなことを強く思ったのは、以前までは、楽に取材ができていた選手の声が取りにくくなった時だ。通常、試合前練習の合間に話を聞くのだが、活躍が目立ち始めると、一人、また一人と、記者が群がり始める。巨人・藤村大介が一軍に上がり始めた当初、ベンチの中で立ち話ができたのに、今となっては、藤村はたくさんの記者に追いかけられ、ベンチにとどまる時間も少なくなっている。
声が取れなくなった寂しさがある半面、誰からも認められる選手になったものだと嬉しい気持ちにもなる。
セ・リーグの首位争いを繰り広げるヤクルトにも、記者の数が増え続けている選手がいる。3番を打つ6年目の川端慎吾である。
昨シーズンの後半戦に彼を取材した時は、記者もほとんど集まっていなかった。今シーズン、10月4日からの阪神戦で川端を捜すと、常に幾人かの記者が付く状態になっていた。「慎吾ちゃん、慎吾ちゃん」と虎番リポーターまでもが彼の声を欲しがるほどで、その光景は川端が全国区になりつつあることを伝えていた。
.276の打率以上に、勝負所での打棒が光る男。
開幕戦こそベンチスタートだったが、川島慶三の故障離脱で得たチャンスを生かすと、2戦目からはスタメン奪取。交流戦中に怪我で登録を抹消されることもあったが、6月24日から再昇格を果たし、7月29日にはついに3番として起用されるまでになった。9月3日の巨人戦で東野峻から特大の本塁打を放つと、10月11日の中日戦まで約1カ月間はキッチリ3番に定着していた。打率.276ながら、今シーズン放った4本塁打は全て貴重な場面でのもので、勝負所での打棒が光っている。
「今の自分の立場にはびっくりしています」
9月27日からの阪神3連戦の2試合で決勝打を放った川端は、そう言って急上昇して行く自身の立場にただただ驚いていた。
彼の活躍がこうまで目立つのは、4本しか打ってない本塁打がそれぞれ鮮明な印象を残しているからだろう。