スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
バルサとレアルでリーガが破滅する!?
「2強18弱」の歪んだ経済バランス。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/08/10 10:30
CL決勝後にビッグイヤーを頭にのせるイニエスタと彼を追うテレビクルー
カタール王族のオーナーをバックに大量補強を行ったマラガを除き、景気の良い話題が聞こえてこない今オフのスペイン。
この状況を見る限り、バルセロナ、レアル・マドリーの2強とその他18チームの格差拡大は着実に進行していると言える。
2強が他の追随を許さぬハイレベルな優勝争いを繰り広げる傍ら、他の18チームはCLダイレクト出場権が得られる3位を頂点とする「オトラ・リーガ」(別のリーグ)を繰り広げる。2011-2012シーズンのリーガ・エスパニョーラも、例年通りのシナリオに沿って進んでいくことは間違いなさそうだ。
拡大の一途をたどる経済格差の原因は放映権収入にあり。
このような状況を招いている原因として、数年前から議論されている問題がある。テレビ放映権収入の“格差”だ。
リーグがテレビ放映権を一括して管理・売買した上で各クラブに収入を分配している他国リーグとは違い、スペインでは各クラブが個別にメディア会社と放映権の売買を行っている。そのためにクラブ間の収入に格差が生じる。高視聴率を保障するバルセロナとレアル・マドリーが1億ユーロを上回る破格の収入を得る一方、その他の中小クラブは不当に低い契約を結ばされているのだ。
サッカー界の経済事情に詳しいバルセロナ大学のホセ・マリア・ガイ教授によれば、リーガが2009-2010シーズンに得たテレビ放映権収入6億1220万ユーロのうち、25.7%にあたる1億5760万ユーロがバルセロナ、22.2%にあたる1億3620万ユーロがレアル・マドリーの手に渡った。つまり全体の約50%、3億ユーロ近くを2チームで独占したことになる。
一方、3番手以下はバレンシアの4210万(6.9%)、アトレティコ・マドリーの4080万(6.7%)、ビジャレアルの2877万(4.7%)と、いきなり3分の1以下に激減。最低額のヘタフェに至っては、全体の1%にも満たない600万ユーロしか手にしていない。
欧州のリーグでも突出する、スペインの極端な分配率。
これがどれだけ異常なことかを理解するには、他国リーグの分配状況と比べるのが分かりやすい。
全体の50%を全20チームに均等分配し、25%をリーグの最終順位に応じて分配しているイングランド・プレミアリーグでは、同シーズンの最高額がマンチェスター・ユナイテッドの6470万ユーロ(全体の5.9%)、最低額がポーツマスの3880万ユーロ(3.5%)で、その差は僅か2.4%しかなかった。
同シーズンのフランス・リーグアンも、上からリヨンの7840万(12.9%)、マルセイユの7090万(11.7%)、ボルドーの6540万(10.8%)といった具合に緩やかに額が低下し、最低額のグルノーブルでも1410万(2.3%)を得ている。他国を見ても、スペインのように2チームで50%を独占するような極端な分配がなされているリーグは見当たらない。