スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
バルサとレアルでリーガが破滅する!?
「2強18弱」の歪んだ経済バランス。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byTakuya Sugiyama
posted2011/08/10 10:30
CL決勝後にビッグイヤーを頭にのせるイニエスタと彼を追うテレビクルー
2強が財務強化される一方、経営難に陥るクラブが続出。
ただ、たとえ総収入が増えたとしても、現行の不平等な分配方法が変わらない限り着々と資金力を増していく2強が国内のタイトルを独占し続けることに変わりはない。
そしてその傍らで、貧しいクラブはさらに貧しくなっていく。今オフにはセグンダB(3部相当)に所属する10クラブが財政難による強制降格を強いられ、そのうちの数クラブは消滅に至った。1部、2部でも破産法の適用によって負債の帳消しと降格、消滅を逃れるクラブが続出し、結果として給料未払いに苦しむ選手が相次いでいる。
「バルサとマドリーの支配はあらゆる分野に至っている。スペインサッカー界の総資産の30%、選手への投資額の51%、リーグ収入の52%、テレビ放映権収入の50%、マーケティング収入の60%……我々はモンスターを作り出してしまった。もはやこのリーガを戦う意味などない」(ガイ教授)
セビージャのデルニド会長も怒りを露わにして訴え続ける。
「リーガはスコットランド化したくそリーグだ(※スコットランドでは1984-1985シーズンのアバディーン優勝以来、セルティックとレンジャースがタイトルを独占)。優勝チームが勝点100を超えることなどフットボールにとって何の利益にもならない。そのうちリーガは2強の試合を除いて魅力がなくなり、テレビ局も金を払わなくなるだろう」
中小クラブの弱体化はリーガ全体の凋落につながる。
史上初のクアトロ・クラシコが実現した昨季に続き、今季もスーペルコパによるクラシコ2連戦でシーズンが始まる。ヨーロッパ最強の2チームの対戦は、現在間違いなくサッカー界最高のスペクタクルである。
だが、スペインのサッカー界はバルセロナとレアル・マドリーだけが支えているわけではない。バレンシア、ビジャレアル、セビージャ、アトレティコ・マドリーら第二勢力が2強を脅かす存在とならなければ国内の競争力は落ち、リーガ自体のレベル低下につながる。そしてこのまま地方の中小クラブの弱体化が続けば、黄金期を過ごすスペインサッカー界は底辺から崩れていくことだろう。
2強あってのリーガは、その他クラブがあってのリーガでもある。既得権益の保守ばかりを考える各クラブ、そして観戦者としての我々もまた、そのことを改めて意識すべき時がきているのだ。