プロ野球亭日乗BACK NUMBER
復帰後に掴んだ「真っ直ぐへの自信」。
斎藤佑樹が証明する“走り込み神話”。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byTakashi Shimizu
posted2011/07/24 08:00
一軍復帰後3戦目の登板で今季3勝目をマークした斎藤。ルーキーながら最後の1枠「プラスワン投票」でオールスターにも選出、第1戦ではランナーを出しながらも無失点で切り抜けた
ナンバー本誌の取材で、巨人の内海哲也投手と話す機会があった。
内海はここ数年、“エース候補”と言われながら、年間を通して結果を残せないシーズンが続いていた。ところが今季は見違えるように安定した投球内容で、7月19日の中日戦でハーラートップに立つ10勝目をマーク。
取材のテーマの一つが、この変身の秘密は何なのか? ということだった。
詳細は本誌で読んで頂くとして、一つ、気になる話があった。
今までの内海は不振になったら、ただひたすら走ることしかなかったのだという。ところが、今年は別のトレーニングを取り入れ、安定した成績につながっている──それが今季の好調の理由なのだという。
投手には走り込み神話、というのがある。
それは400勝投手の金田正一さん(国鉄→巨人)から、右ひじ手術からの復帰に際して、ジャイアンツ球場の外野の芝生が禿げるほどに走り込んだ桑田真澄さん(巨人)まで、多くの名投手たちが信じた神話だった。
走り込んで下半身を鍛え、安定したフォームを作り出す。フォームが崩れ、白星から見放されたときに、投手たちはひたすら走る。それが最後の頼みの綱でもあるからだ。
実は内海もそうしてきたのだが、それだけではだめだったというわけだ。
下半身を鍛える走り込みは投手にとっての「貯金」だ。
それでは走り込みとは、投手にとってどういう練習なのだろうか?
「ただ、走り込めばいいってものじゃないかもしれないけど、走り込みはシーズンの貯金です。そして若いうちに走り込むことは、投手生命にとっての財産にもなるんですよ」
内海の所属する巨人の川口和久投手総合コーチは、現役時代を過ごした広島での体験談を含めてこう語っている。
「僕が入団したころの広島は球団にお金もなくて、室内練習場は猫の額のような狭さだった。若い選手なんか、練習する場所がないんですよ。雨が降ると、とにかく走らされた。雨でも走ることはできるからね」
だから梅雨は大嫌いだった。毎日、反吐が出るほど走り込まされたからだった。
「でも、それが9月になると生きてくるんです。キャンプで走り込んだ貯金は6月、7月まで。梅雨の時期にまたじっくり走り込んで、8月、9月を乗り越えられる。それを若いうちに繰り返すことで、ベテランになっても下半身の衰えが簡単にはこなくなる」
この川口理論から内海のケースを考えると──内海は若い頃から走り込んできた。そうして下半身を鍛え上げて、下地を作ってきた。その貯金の上に、今は違う練習方法を取り入れることで、より安定したフォームを手に入れることができた──こういうことになる。