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復帰後に掴んだ「真っ直ぐへの自信」。
斎藤佑樹が証明する“走り込み神話”。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byTakashi Shimizu
posted2011/07/24 08:00
一軍復帰後3戦目の登板で今季3勝目をマークした斎藤。ルーキーながら最後の1枠「プラスワン投票」でオールスターにも選出、第1戦ではランナーを出しながらも無失点で切り抜けた
復帰後の斎藤佑樹が証明した“走り込み神話”の霊験。
走り込みとは投手にとって、それだけで十分な絶対練習ではない。ただ、ボールを投げる下地を作るため、長いシーズンを乗り切り、1年でも長くプレーするための必要練習だ、ということになるのかもしれない。ならば走り込み神話も、まだまだ崩壊したわけではないということになるのである。
そのことを確信したのは、日本ハム・斎藤佑樹投手の復帰マウンドを見たときだった。
斎藤は開幕から先発ローテーションに入って2勝したが、5月8日のソフトバンク戦の1回に左わき腹を痛めて戦列を離脱。その後、1カ月半余のリハビリとトレーニングを経て、6月29日に一軍復帰を果たしている。
復帰後は2連敗と結果は出なかったが、その投球を観て思ったことがある。
「真っ直ぐの力が増している」
テレビ観戦だったので、すぐに現場で取材している担当記者に確認すると、こんな声が返ってきた。
「確かにストレートは威力が増しています。スピードガンの表示も、故障前は140km前後だったのが、復帰後は平均して142~143kmにアップしています」
復帰後3度目の登板となった7月17日の西武戦では、5回を投げて4安打無失点で3勝目もマーク。このときは今季、初めてバッテリーを組んだ鶴岡慎也捕手がこんな証言をしている。
「(斎藤の復帰後の)ピッチングを見ていて、真っ直ぐに力があったので、もっと真っ直ぐを使えばいいと思っていた」
この1カ月半余りの間に、斎藤のストレートは確かに見違えるように威力を増しているわけだ。
下半身の不安定さは持ち前の器用さでカバーしていた。
そして、その原因を探るヒントになる言葉がある。
「二軍で死ぬほど走らされました」
これは復帰に際して、斎藤が親しい知人に漏らした言葉だった。
実は斎藤の今年のキャンプを見て思っていたのが、ランニングの少なさだった。
斎藤の1年目のキャンプは、とにかく開幕一軍を目指すという大きな目標で動いた。だから練習は実戦重視。もちろん基礎トレーニングもやってはいたが、ウエートトレーニングなどに比べると、走り込みの量は1年目の選手としては少なく感じるものだった。
しかもこの右腕が器用であることも、走り込み不足に拍車をかけたかもしれない。
ボールの力ではなく、制球力と組み立てでそれなりのピッチングができる。ただ、あまりにボールが走ってこないことを危惧する声は、開幕直後からあちこちで聞こえていた。その下地を作るためには、やはり下半身の強化、絶対量のある走り込みが必要だったのかもしれない。