MLB Column from USABACK NUMBER
スコット・ボラスの読み違い。
~MLBスーパーエージェントに不況風~
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byGetty Images
posted2010/01/09 08:00
現在、57歳。ボラスは自身で会社経営も行っており、代理人交渉の他にスカウティング事業も行っている
長引く不景気がボラスの強引な交渉戦略を狂わせる。
そもそも2005年オフのデーモン、そして昨オフのマーク・テシェラの契約交渉でボラスの強気戦略が成功した理由は、最金満球団のレッドソックスとヤンキースを直接競わせたことにあった。それを、一昨年のロドリゲスにしても、今回のデーモンにしても、他に競争相手がいもしないのに、「こちらの要求額はまけられない」と強気の交渉で臨んだのだから、裏目に出たのも無理はなかった。
もっとも、世の中全体の景気がよければ、ヤンキースの提示額を上回るオファーをする球団が出てくる可能性もあったのだろうが、昨年以降の大型不景気でどの球団もただでさえ財布の紐は固くなっている。
さらに、ヤンキースにしても、30球団中唯一「ぜいたく税」(年俸総額1億7000万ドルを超える金額に40%を課税)を課されている球団として、これから結ぶ契約は実質4割高で計算しなければならないのだから、財布の紐が固くなるのも無理はない。
煎じ詰めると、世の中全体の経済情勢が、ボラスの強気戦略が通用しにくいものへと変わってしまったのである。
「習い性となる」という言葉があるが、ボラスにしてみれば「強気で交渉すればするほど獲得額が増える」というやり方で長年成功してきただけに発想の転換ができず、「読み違い」を頻発する原因となっているのではないだろうか。