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松浦孝亮よ、ヨーロッパに帰って来い! 

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西山平夫

西山平夫Hirao Nishiyama

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photograph byAFLO

posted2004/08/25 00:00

松浦孝亮よ、ヨーロッパに帰って来い!<Number Web> photograph by AFLO

 F1はハンガリー・グランプリが行われていた8月15日、アメリカではIRLインディカーシリーズ第11戦がケンタッキーで戦われ、Gフォース・ホンダの松浦孝亮が4位入賞を遂げた。佐藤琢磨のアメリカGPでの3位も見事だったが、この4位もすばらしい。

 個人的な感傷だけれど、松浦孝亮がヨーロッパからいなくなって今年は淋しい思いをしている。いつも明るく、冗談ばっかり飛ばして、でもいざレースとなると必ず結果をもたらしてくれる「コースケ」は我々取材仲間の人気者なのである。

 一昨年まではドイツGPの前座F3で2年連続表彰台の真ん中に登って感動的な君が代を聴かせてくれたし、今年もヨーロッパでF3000のレースでもやりながらF1のシートを狙って雌伏の時を過ごすものとばかり思っていた。

 実際、F1をドライブする可能性もわずかながらあったと聞くが「お世話になった鈴木亜久里さんに少しでも恩返ししたい」と柄にもなく殊勝なことを言い、スーパーアグリ・チームのドライバーとしてアメリカへ行ってしまった。いまはインディアナポリスに棲んでいる(高木虎之介も在インディアナポリス)。

 そのコースケと今年2回会った。最初はIRL「もてぎインディ」で凱旋帰国した時。もう1回はF1のアメリカ・グランプリのパドックに遊びに来た時。

 もてぎのレースは応援に行かれなかったけれど、その数日前に取材で会った時はインディの難しさ、楽しさを仕方噺タップリに教えてくれた。

 難しいのはオーバルコースでの抜き方だという。ゴーカートからフォーミュラへとステップアップしたロードコース育ちの彼は、前車をパスする時本能的にアウト〜イン〜アウトのラインを取ろうとする。インから抜いて行くのだ。ところがインディ・ドライバーはここぞという時にアウト〜アウト〜アウトで抜く。オーバルコースのコーナー大外を使うのだ。初めてのIRLでそうやって抜かれた時はたまげたと孝亮は笑った。

 インディに限らずだが、コースの外側、すなわちレーシングラインをはずしたところはタイヤ滓が溜まって汚れている。そんなところを通るとマシンが滑る恐れがある。しかしインディ・ドライバーは大胆に大外を通る。もっとも、蛮勇だけでそうするのではなく、たとえばサム・ホーニッシュJrなどは仕掛ける1周前にあらかじめそのコーナーの大外を走ってタイヤ滓を飛ばし、次の周に抜くという。掃除しておくわけだ。「あの真似は怖くてまだできません」と言っていたが、ケンタッキーのレースでは一時15位まで落ちてそこから4位まで這い上がったというから、大外抜きも大胆にやってくれたことだろう。

 インディの面白さは、レース中にクルマを作るれること、出遅れてもイエローコーション(ペースカー先導のスロー周回)で順位を挽回できることとも教えてくれた。

 インディ・レースはその日の路面コンディション、風の具合などによって予選の時とハンドリングが大きく変わってしまうことが多々ある。それをピットストップのたびにフロント・ウイングの角度、タイヤの空気圧、アンチロールバー(スタビライザー)などを調整しつつ最適なハンドリングに近づけて行くのだ。後ろからのスタートとなっても最後までチャンスがあるやりがいのあるレース、それがインディだと喝破した。

 アメリカGPで会った時はケッサクだった。BARホンダがプレス対抗のタイヤ交換コンテストを実施。日本チームの我々はコースケを見つけてこれ幸いとコクピットに押し込んだ。メカニックに数メーター押されて所定の位置に止めるだけのことなのだが、それだけでは面白くないと思ったか、マシンが押され始めたたらコクピットの中から両手を挙げて「はい、チーズですよォ!」と来た。見ればデジカメで我々タイヤマンを撮っているではないか! 全員ズッコケて、おかげでイギリス・チームに完敗してしまった。

 こういうドライバーと毎戦付き合っていると、いつまでも老けないのじゃないかと思ってしまう。

 松浦孝亮よ、早くIRLで勝って、恩返しだかお礼奉公だかをしてさっさとヨーロッパに帰って来いよ! と、このサイトを使ってラヴコールを送っておこう。

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