野球善哉BACK NUMBER
阪神タイガースを明るくする男。
~CS進出は鳥谷敬の出来次第~
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2009/09/28 13:00
開幕時は責任ある「3番」に抜擢されたが……。
今シーズンの開幕時。真弓監督は鳥谷を3番に抜擢した。過去には1番を任されたことはあったが、「適性なし」と判断され定着することはなく昨年は6番を打つことが多かった。そのことを考えると大抜擢と言っていい。それは真弓監督の考える青写真に、鳥谷の存在が大きく映っていた、と言い換えてもいいかもしれない。責任ある「3番」という打順での起用は「鳥谷は阪神を引っ張る存在であるべき」という真弓監督からのメッセージだった。
ところが、チームの低迷と彼の不調が重なってくると、その真弓采配に陰りが生じてくる。岡田前監督が発した「新井は3番じゃないと生きない」という解説にメディアが飛びつき、采配が批判にさらされたことも影響しているのだろう。
確かに、昨年うまく機能した「3番・新井」は一番堅実な選択肢だったが、阪神の未来や鳥谷の将来を考えた時に、3番に新井、鳥谷を6、7番におくことに、将来への希望は見えない。ましてや、鳥谷は「ヨシノブ」級の期待があった選手である。
前半戦の不調から復活し、後半戦ではチームを引っ張る。
選手育成よりも目の前の1勝を欲しがる阪神ファンやメディアがそれを許してはくれなかったため、打順変更を余儀なくされたが、それでも真弓監督は「3番・鳥谷」の変更を問われた際に「鳥谷には楽な打順で打たれては困る」と漏らし、一時的に「1番」で起用している。そして、後半戦が始まってから意を決して3番に戻したのだ。
だからこそ、16日の巨人戦での活躍は価値があった。「体がバットに巻き付くようになった」「足の上げ方がフィットしてきた」と復調の要因は挙げられるが、そうした技術的な要素よりも、「3番・鳥谷」の存在感が、生え抜きスターが少ない阪神の未来を明るくする。
前半戦、低迷の要因としてやり玉に挙げられた男が、後半戦にはチームの中心となって阪神を引っ張る存在となっている。残りのシーズン。クライマックスシリーズ進出へ向け、阪神にとっても、鳥谷にとっても重要な時期を迎えているが、その結果がどうであれ、そのひとつひとつが必ず将来へのプラスになる。
26日の中日戦では鳥谷が先制打を放ち、序盤で試合を大きくリードした。ところが、その後、投手陣が崩れて試合を逆転されると、鳥谷は最後の打者になった。
鳥谷が打てば勝ち、鳥谷が打てなければ負ける。
そんな阪神になっていい。