Column from Holland & Other CountriesBACK NUMBER
平山がいるアルメロはどんな街?
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byMiki Nagai
posted2005/09/02 00:00
平山相太がやってきたアルメロの街は、かなり小さな、のんびりした町である。
たとえば、平山が部屋を探しているとき、こんな話があった。
チーム側が最初に案内した部屋は1階で、平山と関係者は「ちょっと物騒」という理由で断った。そうしたら、案内した人が驚いたように言った。
「この街にはアムステルダムやロッテルダムと違って、泥棒なんていないよ!1階でも大丈夫!」
確かに街を離れればすぐに野原になるし、移民系の住民も少ない。街を歩くと、選手どうしが出くわすこともしばしばだ。プライベートでうかつなことはできないが、サッカーに集中するには最適な街だろう。
クラブの雰囲気もいい。
ハンブルガーSVからヘラクレス・アルメロに移籍してきたGKピーケンハーゲンは、チームの一体感に驚いている。
「靴は自分で磨くし、自分がアマチュアのクラブにいた頃を思いだすよ。でも、会長から用具係まで、みんな家族のようなんだ。悪くない。ドイツのように商業的でないし、サッカーに対してものすごく純粋だ」
正直、ヘラクレスのDFのレベルはドイツでいえば2部並だ。練習中もピーケンハーゲンは、DFのミスが多いのでかなりイライラしている。それでもピーケンハーゲンは試合になれば好セーブを連発し、ヘラクレスの好調を支えている。「自分がチームを成長させているような気分になれる」。ピーケンハーゲンは、この移籍を心から楽しんでいるのだ。オランダリーグ第3節のフローニンゲン戦で逆転勝利し、新人の平山と嬉しそうに抱き合ったのが印象的だった。
平山がヨーロッパ行きを決断したとき、選択肢はいくつかあった。以前から声をかけてくれているフェイエノールト。ベルギーの名門アンデルレヒトとクラブ・ブルージュ。この2チームは今季CLに出場する。そして、1部に昇格したヘラクレスである。
もし華やかな舞台を求めれば、ベルギーに行くという選択肢もあった。だが、平山はヨーロッパの舞台とは無縁の一番小さなクラブを選んだのである。
平山の“鮮烈デビュー”の第一歩は、この決断をしたとき、すでに約束されていたのかもしれない。
平山は練習よりも、実戦で輝くタイプだ。ピーケンハーゲンも「ソウタは戦術練習よりも、ミニゲームになったときの方が生き生きする」と評価している。ゆったりとしながらも常にポジションをずらして、相手DFの視界から消えるのがうまい平山にとって、試合に出られるか、出られないかが、大きな分岐点となる。FWの層が薄いヘラクレスであれば、出場の機会は必ず訪れるはずだった───デビュー戦で2ゴールという結果は、ちょっと出来すぎだったが。
アルメロの街はのんびりしているし、平山本人も結構ボーっとしている。だが、彼の成長のスピードだけは、想像以上の速さで、加速し始めている。