Column from SpainBACK NUMBER
一番の経営上手はセビージャ。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2005/09/07 00:00
1カ月前に家から消えた猫が、ある日突然、戻ってきたという。というよりも、近所にいたらしい。でも、その家にはすでに新しい子猫ちゃんがいたのだった。飼い主はいう。「ワタシはいいんだけど、ママが嫌がって。新しい子猫はママが自分で選んだの」。ママは「アナタもらってくれない?」ときたもんだ。追い出すのか?
リーガ・エスパニョーラにも、似た話がある。モナコに貸し出されていたウサギさんは、どうしてもスペインに戻りたかった。で、昨シーズン後、FCバルセロナに戻ってきた。でも、彼の居場所はどこにもなかった。バルセロナにはメッシという新しい子猫がいたから……。
スペイン語で「コネッホ(=ウサギ)」のあだ名で呼ばれるサビオラがモナコを出て大好きなスペインへ向かったのも、いくつかのオファーがあったからだ。アトレティコにエスパニョールが名乗りをあげていたけれども、最終的にはちゃっかりセビージャが獲得する。
開幕戦で、これまでと違う色のユニホームを着てデビューを飾った選手は35人になるという。そのなかにはサビオラのように開幕寸前まで行く先が宙ぶらりんの選手がたくさんいた。ほとんどは無名の選手だが、ダリオ・シルバ(セビージャ)やロサード(オサスナ)のように30オーバーという年齢がネックとなった選手もいれば、ポルティージョやミニャンブレスらのように23、4歳でもレアルで戦っていくにはいまひとつパンチが足りない、そんな困った選手もいた。
デビュー当時のポルティージョは騒がれた。でも、レアルのFWのポジションを勝ち取るのは無理だった。相手はロナウドとラウールですから。レアル育ちであるから、ずるずる残って、何度かレンタル移籍はしたけれど、買い取ってはもらえず、すぐリターン。フィオレンティーナでベンチをあたためていたのは、何もナカタだけではない。横にはポルティージョもいた。ミニャンブレスにしても、エスパニョールは半年で手放している。
ロビーニョの加入で追い出される形となったオーウェンは、開幕しても交渉が難航して、カディス戦ではベンチに入っていたほどだ。レアルが放出することは決まっていたのに、2001年バロンドール受賞者なのに、である。嫌がらせに近い。新天地ニューカッスルでは、ラ・コルーニャから移籍したルケとコンビを組むことになる。
FCバルセロナはレアルに比べれば静かなものだ。サビオラをセビージャへ、ジェラールをモナコへ、飛ばしたぐらい。しかも、選手獲得にいっさいコストはかかっていない。ファン・ボメルとエスケーロはクラブとの契約期間が切れてからのご購入だ。せこい?いやいや、賢い。それにエジミウソン、モッタ、ガブリら昨シーズンをケガで棒に振った選手も戻ってきた(と、思いきやガブリはまた数週間のケガだが)。イニエスタやメッシの若手も急成長している。
でも、開幕戦でバルサは勝てず、レアルは勝った。ファン・ボメルは出場しなくて、ロビーニョは活躍する。どちらのチーム作りがアタリなのかは、わからない。
そんななか、ここ数年のセビージャがとんでもない数字で選手を動かしていたことに驚かされる。低コストで選手を買う、もしくは下部組織で育てる。で、高額で売る。売り買いの基本といえば基本だが、これが難しい。2年前、自前で育てたレジェスは約30億円でアーセナルが引き取った。入れ替わりでバプティスタを約3億で買い、今季レアルに10倍で売れた。いまもアドリアーノやレナトに、すでに高値のオファーが舞い込んでいる。オカネで選手を獲得するのは簡単。でも理想は0円で契約。常に2〜6億円ぐらいでやりくりしたい、とセビージャのディレクターはいう。
レアルは約37億でセビージャからセルヒオ・ラモスも買った。ロビーニョにバプティスタ、なんだかんだと合わせると新選手獲得コストは100億円を超える。0円のバルサ。もうけたセビージャ。経営方針もそれぞれである。