レアル・マドリーの真実BACK NUMBER

レアル優勝へのバランスシート。 

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木村浩嗣

木村浩嗣Hirotsugu Kimura

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posted2005/08/19 00:00

レアル優勝へのバランスシート。<Number Web> photograph by MarcaMedia/AFLO

 今季のレアル・マドリーは圧倒的に強いはずだ。昨年も優勝候補にはあげたが、戦力は今年の方が上。「優勝間違いなし!」と言い切りたいところだが、バルセロナがいる。この宿命のライバルもチャンピオンの座におごらず、着実に戦力アップをした。

 この2チームはとてつもなくレベルの高い争いを繰り広げるだろう。

 言っちゃ悪いが、ビジャレアルもセビージャもバレンシアも目じゃない。いや、この3チームもかなりいいチームなのだが、2強の力は次元が違う。ヨーロッパ最強の位にきわめて近いと思う。

 ついでに言えば、スペイン勢は、昨季不振だったチャンピオンズリーグでもUEFAカップでも上位進出が期待できそうだ。2強の地盤沈下が止まり、移籍市場でも海外への才能流出がストップして、リーグ全体の底上げがなされようとしている。しかしそれでも、バルセロナ、レアル・マドリーの足元にも及ばないだろう。

 今回は、レアル・マドリーの戦力をプラス面、マイナス面を比較しながら、分析してみよう。

■今季、改善された点

(1) システム・戦い方が定まった

 システムは「4−1−3−2(中盤4人がダイヤモンド型に並ぶ)」であり、これで昨季後半は結果を出している。実績のあるシステムが継承できること、これは大きなメリットだ。

 ここ数年レアル・マドリーといえば「4−2−3−1」だった。デル・ボスケ時代に成功したこのシステムだったが、引き継いだケイロスが、マケレレを失い(これはフロントの致命的な大失策)、ベッカムをボランチに起用してから迷走が始まった。ダブルボランチ(1人は守備的、1人は攻撃的であるべき)の連係プレーが消え、両サイドバックの攻撃参加で崩すこのシステムが、左サイド(ジダン、ロベルト・カルロス)の衰えで、機能しなくなった。

 カマーチョは守備的ミッドフィルダー、ビエイラを要求したが、フロントはこれを無視。ルシェンブルゴの代になってやっとグラベセンがやってきた。ルシェンブルゴは当初「4−2−3−1」をテストしたが、手持ちの駒の特性を考え2トップの「4−1−3−2」に変えた。

 変更の理由は明らかにされていないが、(1)コンパクト(フォワードから最終ラインの距離を短くした)にしたことで、1ボランチでも守備が機能した、(2)結果を出していたオーウェンを活用し、運動量の少ない1トップ(ロナウド)頼りの攻撃から脱却する、(3)ベッカムを得意な右サイドに戻す、(4)フォワードを1人増やしプレスの効率を上げるとともに、両サイドバックの攻撃への負担を減らす、などの事情、狙いがあるのではないか。

(2) ルシェンブルゴ監督の続投

 デル・ボスケ解任から2シーズンで4人の監督がベンチに座ったが、やっとルシェンブルゴで結果が出た。

 フィジカルの強化、規律による締め付けなど、彼のやったことは実はカマーチョと大差なかったのだが、人徳の差か、今度は“銀河系の戦士”たちに受け入れられた。特に前回、造反の旗を上げたロベルト・カルロス、ロナウドのブラジル勢に歓迎されたのが大きい。モチベーションを上げアグレッシブさが増した(反則が急増した)、セットプレーのバリエーションが増えた、チームがコンパクトになったのは、ルシェンブルゴの功績だ。

 また、フロントへの影響力も前任者たちよりも大きいようだ。

 グラベセンに続きパブロ・ガルシアを獲らせたし、ロビーニョ、バプティスタ獲得での“ブラジル化”にも文句を言わせなかった。その犠牲が、フロレンティーノ会長が可愛がっていた“元祖銀河系”のフィーゴ、レアル・マドリーの象徴ラウール、あるいは前年の会長の“隠し玉”オーウェンとなっても、臆するところがなかった。ブラジル化の是非はともかく、補強の主導権を会長から奪い返したことは、真の強化のためには正しい。

(3) 競争原理の導入でモチベーションアップ

 ロビーニョとバプティスタの加入で、銀河系の戦士の目の色が変わっている。

 世界一激烈なフォワード争いに、ロナウド(4ゴール)、ラウール(3ゴール)、オーウェン(3ゴール)はそろって結果を出している。銀河系でありさえすればレギュラーが約束されていたケイロスの時代には、考えられないことだ。まさに銀河系間の戦い、“スターウォーズ”である。

 分が悪いと思われていたラウールとオーウェンが腐らず、逆に闘志を燃やしている。特に、オーウェンのプロ意識は賞賛に値する。昨季はロナウドの控えとして少ないチャンスを活かしてゴールを量産。今またラウール、ロビーニョの壁を前にしても同じことをやり続けている。采配批判をしたフィーゴとは大違いだ。

 ルシェンブルゴ監督の信頼も厚く、ベルナベウのファンにも愛されている。出て行くのは確実かと思われたが、万が一、ルシェンブルゴが引止めに成功すれば、これはレアル・マドリーにとっては非常に大きな戦力だ。ロナウド、ロビーニョ、ラウールを実力でしのぐ大ブレイクの予感すらある。そのくらい最高のコンディションで仕上がっている。

(4) 攻守バランスの向上

 サムエルを放出すべきではなかった。ロベルト・カルロスの左サイドとパボンのセンターバックには不安がある。

 が、それでも守備的ミッドフィルダー0(ゼロ)からスタートした昨夏よりは、2(グラベセン+パブロ・ガルシア)の今夏の方が、強化されている。ミッチェルの控えにディオゴを獲ったこともプラスだ。つまり、「昨年のディフェンダー陣の守備力」+「グラベセン」+「パブロ・ガルシア」+「ディオゴ」−「サムエル」−「セラーデス」=「今年のディフェンダー陣の守備力」という式になる。これに、前述の「組織としての守備力」アップを考慮すると、私の結論では、「今年の守備力」>「昨年の守備力」である。

 もっとも現在のシステムでは、守備的ミッドフィルダー2枚は同時に使えないが、守り切りたいときには、前の1枚を減らしてグラベセンとパブロ・ガルシアのダブルボランチという選択もできる。

 もう一つ、実は私はバプティスタのディフェンダーとしての貢献にも期待している。それは次の項目で述べたい。

(5) バプティスタ:攻守万能プレーヤーとなるか

 バプティスタの加入は大きなプラスである。高さがあり、フィジカルが強い。これは攻撃面だけでなく守備面でも武器になる。守備的ミッドフィルダーからトップ下へコンバートされた選手だが、ルシェンブルゴのレアル・マドリーでは、攻守両面での活躍が待たれる。これはジダンにもロビーニョにもラウールにも期待できない、バプティスタだから可能なことだ。

 攻守万能プレーヤーの先輩としては、バルセロナのデコがいる。インターセプトもファールで相手を止めることも、絶妙のスルーパスや強烈なミドルシュートと同じくらいの精度でやってのける。私はモダンサッカーの一つの理想だと思うが、バプティスタがそう変身する環境が今のレアル・マドリーには備わっている。

 ルシェンブルゴはトップ下にジダンを置き、バプティスタを左サイドで試している。両者にはポジションチェンジの自由を与えるようだ。

 左でも真ん中でも関係ない。“レアル・マドリーのデコ”にバプティスタが変身したとき、誰も彼からレギュラーの座を奪う者はおらず、ルシェンブルゴ型「4−1−3−2」は完璧に機能する。そうなれば、いかにバルセロナといえど追いつけないだろう。

■不安材料・改善されていない点

(1) ケガ人ウッドゲートの回復具合

 ルシェンブルゴ監督は彼の回復を信じているらしい。センターバックの補強を否定するのもパボンとウッドゲートで賄える、と判断しているからだという。本人は合同練習にも参加している。

 そんな中、そろそろその勇姿が拝めるかと期待していた矢先、ルシェンブルゴから「ウッディーは14、15歳の少年たちとプレーし始める。(中略)その後は16、17歳だ。その次は2部のBチームに合流する」と発表があった。これは、開幕に間に合うかというレベルの話ではない。早くて「年が変わってからの合流」と考えるのが妥当ではないのか。

 ウッドゲートについては、昨年9月の「バイエル・レバクーゼン戦で復帰」と言われていた。それが直前で再負傷。次は、「今年の3月」という噂があり、それも実現しないとなると「今季絶望」に変わった。実際、順調に回復しているのかどうか、本当のところはまったくわからない。

 パボンとエルゲラで1年を乗り切るのは不安である。ここがレアル・マドリーの最大の弱点だろう。

(2) ロベルト・カルロスの衰え

 これはもう2年ほど指摘し続けている。ジダンに守備が期待できないから、余計ロベルト・カルロスの守りが気になる。バプティスタとジダンを入れ替えたのは左サイド強化が理由だろう。

 強靭な肉体が持ち味の彼だが、昨季はレアル・マドリーに入って初めて、ケガがちのシーズンを過ごした。控えにはラウール・ブラボがいるが、彼の守備力もそう褒められたものではない。

 “超攻撃的なサイドバック”と呼ばれるロベルト・カルロスは、それまでのディフェンダーの概念を壊した革新的な選手だった。スペインでは「左ウイングと左サイドバックがセットになった選手」と賞賛されていたものだ。ところが、年齢による衰えが脚力の低下に表れ始めている。

 本来、攻守バランスから言えば、両サイドバックの攻撃参加はさほど必要とされていない。「4−2−3−1」から「4−1−3−2」への変化で、役割はより守備的なものに移ったのである(たとえば、オーバーラップは2トップと両ウイングの間で行うことができるようになった)。サイドライン際を駆け上がる姿を見られなくなるのは残念だが、守備という地味だが大切な役割をどこまでこなせるか。

 バルセロナとの争いは、“タレント対組織”という点でも興味深い。大物スターを獲得したレアル・マドリーとサビオラ、リケルメすら切り捨てた厳選主義のバルセロナ。例年になく楽しみな開幕まで、もう2週間を切った。

#レアル・マドリー

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