Column from GermanyBACK NUMBER
HSVの不調は誰のせい?
text by
安藤正純Masazumi Ando
photograph byGetty Images/AFLO
posted2006/10/26 00:00
人間誰でも、大金を稼ぎ、チヤホヤされ、贅沢を味わうと傲慢になるものだ。不振のドツボにはまっているハンブルガーSVの現状を眺めると、熱血漢トーマス・ドル監督に同情はするものの、とても選手やクラブ首脳陣にエールを送る気になれない。
2年前、前任者をクビにしたHSVは危機感に溢れていた。「このままじゃリーガに残留できないぞ」という焦りと恐怖感がチームを1つにまとめあげ、火事場の馬鹿力を発揮。その結果ファンは大応援を続け、成績も上向き、すべてがプラスの方向へ進んだ
タカハラしか知らない人のためにちょっと説明しておくと、80年代までのHSVはバイエルンと並ぶドイツのトップチームで、チャンピオンズカップ(当時)でユベントスを破って優勝もしたことがある超名門。OBには、西ドイツ代表の象徴的存在だったゼーラー、現バイエルン監督のマガート、“賢人”評論家ネッツァー(元・GM)らが名を連ねる。
そんなHSVがなぜ、わずか2年間でこうも没落してしまったのか。キーワードがある。選手にやたらと甘い経営者、名誉や勝利より金と待遇を気にするばかりの選手たち、そしてそれを許している一部のお間抜けなファン。もちろんドル監督の戦術が他チームから研究され尽くしたことも見逃せない。
ホフマン会長の哲学はこういうものだ。「選手には高給で報いる。身の回りには何でも揃えてやる。不安のない生活を送り、サッカーに集中してもらうためだ」。というわけで今夏、無添加食品の専門調理人2人を雇い、新型バスを購入した。チームマネジャーの2人は選手の住居、役所への提出書類、子供の学校、語学学校、車の購入まで面倒を見る。
これだけサービスしているんだから当然選手は頑張る……はずが、アレレ?ちっとも成績が上がらないじゃないの!会長は「とにかくケガ人が多くて」と言い訳に懸命だ。だが経営者の立場としたら内心ほくそ笑んでいるかもしれない。平均入場者数が当初予想より7000人ばかり増え、ファンショップの売り上げも5000万円増加。反対に勝利ボーナスの支払いがなくなったことで、出費は大幅に減った。かくして成績は不振でも経営は順調という“悪循環”が断ち切れない構図が出来上がったのである。
ブンデスリーガは8試合目で初勝利、チャンピオンズリーグは泥沼の3連敗。恐らく1つも勝てぬまま欧州の大舞台で恥をさらすことだろう。いったい、こんなチームに誰がしたって?わかっているじゃないの、本人たちは。