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南アフリカW杯アジア3次予選 VS.バーレーン 

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木ノ原句望

木ノ原句望Kumi Kinohara

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photograph byTomoki Momozono

posted2008/06/24 00:00

南アフリカW杯アジア3次予選 VS.バーレーン<Number Web> photograph by Tomoki Momozono

 その瞬間、バーレーンGKサイド・モハメド・ジャファルの視野の一角には、突進してくるFW巻誠一郎の姿が映ったはずだ。DF内田篤人がヘディングで相手と競り合ったロビングボールは、ゴール手前で大きくバウンドすると、再び大きく弧を描いてジャファルの頭上を越え、ゴールに吸い込まれた。その後を追って、確実に獲物を追い込むように、巻がゴールへ飛び込んでいた。後半45分、日本がバーレーンからあげた決勝点だった。

 6月22日、このゴールによる1−0の勝利で、日本はワールドカップアジア地区3次予選をグループ首位で終え、最終予選へ駒を進めた。

 幸運という言葉で片付けられてしまいそうな得点パターンだが、それだけでは決して生まれなかったゴールだろう。

 巻は「僕はなにもしていません」と話し、内田も「GKが誰かとぶつかればいいなと思っていた程度」と言ったが、2人とも試合の最後の最後までゴールを意識していたに違いない。得点はそういう姿勢の表れだった。日頃から勝利への執念をもっと表に出してプレーして欲しいと願っていた岡田武史監督も、「上手くてスマートな選手たちが泥臭い点を取ってくれた」と喜んだ。

 最終予選突破を睨んで、この段階でチームとして何を積み重ねるべきなのか。これは重要な問題だった。

 多くの外国人指導者からも日本人選手の技術的レベルは高く評価されているし、実際にこのチームにはきれいにパスを回す技術も冷静さもある。そういう選手たちが精神的に一皮むけることが、この3次予選を戦う上で岡田監督が最も期待していた部分ではなかったか。

 岡田監督は以前に「監督に言われているからやるというレベルでは本当ではない。自分が勝ちたいと思うようになって自然と仲間に要求が出てくる」と話していたが、選手のメンタリティがチームの成長のカギを握ると考えていたに違いない。その意味では、このゴールをひとつの成果とみることもできる。

 だがそれだけでは、「山あり谷あり」(岡田監督)の最終予選は乗り越えられない。

 この日は、飛車角落ちの相手に、ボールを支配しながらもゴールを脅かす場面は少なく、最終予選出場国の顔ぶれを考えると、まだまだ取り組むべき仕事が多いと感じさせられる内容だった。

 決めるべきときに決められない。また、どうやって相手から得点を奪うかが、まだ見えてこない。

 前半10分、MF中村憲剛のスルーパスに鋭く反応したFW佐藤寿人がペナルティボックスに入り込み、相手ディフェンスのファウルを誘った。MF中村俊輔のPKはGKに止められてしまったが、この場面のように、細かいパスをつないで相手ディフェンスの裏を取ろうという意図は見て取れた。だが、守備を固める相手を前に、効果的な縦のボールがなかなか出なかった。

 また、最終予選を睨み、既に警告を1度受けていたMF松井大輔、MF長谷部誠、DF駒野友一を外してこれまでの3試合とは違う先発メンバーが起用されたせいか、攻撃の組み立てには再びぎこちなさが漂った。今後を考えれば、人が代わっても一定のプレーレベルをキープできるようにしたいところだ。

 ただ、確実に進歩した面もある。3月の対戦ではロングボールへの対応に苦労していたが、この日はボールキープをし、ボールを失ってもすぐに相手を追い込んで奪い返した。DF中澤祐二を中心にしたバックラインがヘディングでクリアしたボールを、味方が拾ってフィードする。そういう対応を見れば、課題の一つは消化できていたと言える。

 「前回の対戦時とは全く違うチームになった」と岡田監督は力強く言った。確かに、敵地マナマでいいところなく0−1で負けた時に比べれば、勝利への執着心の表出も、チームの連携も守備もよくなっている。選手も「ようやく土台ができた」(中村俊輔)、「チームとして方向性が見えてきた」(遠藤保仁)と手応えを感じている。

 それだけに、代表チームとして活動できる時間が限られる中で、細かい部分をどう詰めていくかが問われている。課題はまだ終わらない。

内田篤人
岡田武史
中村憲剛
佐藤寿人
中村俊輔
駒野友一
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