岡田ジャパン試合レビューBACK NUMBER
南アフリカW杯アジア3次予選 VS.タイ
text by
木ノ原句望Kumi Kinohara
photograph byNaoya Sanuki
posted2008/06/17 00:00
試合開始の笛の音の余韻が、あっという間に2万5千人の観客の歓声にかき消される。立ち上がり13秒、キックオフからプレスをかけてシュートまで持って行ったMF長谷部誠のプレーに、バンコク・ラジャマンガラ競技場が沸いた。
6月14日、ワールドカップアジア地区3次予選のタイ戦で、日本は前半の猛攻で試合の主導権を握り、試合の趨勢を決めると、3−0で勝利した。
勝てば最終予選進出がほぼ決まる試合。当日は、オマーンでの灼熱の暑さや、バンコクでの前日までの蒸し暑さに比べればかなり涼しかったとはいえ、動けば暑いことに変わりはない。加えて連戦と長旅による疲れもある。そうした状況で、日本は前半立ち上がりから素早く執拗なプレッシャーを相手にかけ続けた。後半の失速というリスクも負うものだったが、「勝負に徹するサッカーをする」という岡田武史監督の意図と、「ここで勝つ」というチームの気持ちが表れていた。
日本の勢いは、タイのチャンヴィット監督に「これまでと違った」と言わしめたほどで、圧倒されたままのタイ選手は、セットプレーのディフェンスでも、日本選手を捉えることができない。
日本は、前半15分、16分と、MF中村俊輔のCKにDF闘莉王とDF中澤佑二がヘディングで合わせた。この時は得点には至らなかったが、同じような形でMF遠藤保仁のCKに23分に闘莉王が、39分に中澤がファーサイドで鋭く反応してネットを揺らし、日本は前半に2−0のリードを奪った。
全般に小柄なタイ選手に対して、体格差を優位に利用することは岡田監督も狙っていた。セットプレーはそれが最も顕著に現れる場面だ。次々と相手を追い込んでボールを奪い、畳み掛けるように攻撃を展開してはCKのチャンスに結びつける。作戦的中だったと言っていい。
しかしその反動で、後半は選手の動きが落ちて、交代出場してきたタイFWチャナブットを中心に相手に何度か押し込まれる場面があった。それでもGK楢崎正剛の堅守でこれを切り抜け、後半43分にはDF駒野友一のパスから途中出場のMF中村憲剛がチームに3点目をもたらした。
「暑さの中、最後までよく戦ってくれた」と安堵感を漂わせながら話した岡田監督は、ボランチの2人や足が吊ったMF松井大輔らの運動量を例に挙げ、「そこまでがんばってくれた。そういうところがこのチームには必要だった。これでこのチームは一つ大きくなってくれると思う」と続けた。3次予選突破だけでなく、チームとしてもステップアップしたという手応えを得たようだ。
前半の2得点はセットプレーからで、流れの中からの得点がなかったことに物足りなさを指摘する声も聞く。だが、結果がすべてのワールドカップ予選で、体格差やセットプレーでの強さという、自分たちの特徴を十分生かして試合を手中に収めたことは評価すべきことではないか。
オマーン戦での健闘やこの日のプレーを見れば、チームが着実に進歩していることがうかがえる。もし注文をつけるとすれば、タイ戦後半の選手交代のタイミングと、後半の戦い方だろう。
激しいプレスでボールを奪い攻撃に転じるプレーがこのチームの骨格だとすれば、後半に動きが落ちるのも想定内のこと。特に、ケガを押して出場していた中村俊輔の状態などを考えればなおさらだろう。後半早々からフレッシュな戦力を投入するなどで、前半の展開を受けた後半の戦い方を見出せれば、それはまたこのチームの武器になるはずだ。
15日未明、バーレーン対オマーン戦の1−1引き分けという結果が届いて、日本の最終予選進出が決まった。他のグループからも、イラン、韓国、北朝鮮、オーストラリア、サウジアラビア、ウズベキスタンなどが続々と進出を決めている。
3次予選最終戦となる22日のバーレーン戦へ向け、岡田監督は「前回の屈辱は一生忘れない。日本サッカーのプライドをかけて戦う」と話して勝利への執念を見せた。一方でこの試合は、これまで出場機会のなかった選手を起用した、新たな戦い方を実践できる機会でもある。今後を睨んで、ゲームプランのオプションが増やせるような試合にしたいところだ。