Column from SpainBACK NUMBER
バルサとレアルの悪循環。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2007/01/05 00:00
国士無双なる大技が飛び出した、とする。でも、その夜必ず勝って帰れるとはいえないのが麻雀の怖いところ。100億円を投資したとしても、不評な映画だったりする。
はい。ヘンな例えですけど。バルサのフットボール・ライフというのはそんな感じなんです。最高のゴールを決めても、最高の選手を抱えていても、笑えない夜もあるわけでして……。
2006年夏に行われたUEFAスーパーカップに続いて、年末のクラブW杯もファイナルで負けた。A代表マッチが重なり、選手のほとんどが不在だったカタルーニャカップを含めれば、すでに3タイトルを逃したことになる。
準決勝のクラブアメリカ戦では4ゴールを奪う最高のゲームを演出したことで、チームもバルセロナの街も楽勝ムードが漂っていたのは確かだ。それでも、ほとんど欧州では無名なインテルナシオナルには負けるわけがない、といまでも思ってしまう。
「コンディションが悪かったからな」というクライフも、14年前にトヨタ杯を逃しているから、強気には出られない。そういえば、セビージャとのスーパーカップのときとほぼ同じセリフだった。
ライカールトに責任はある?スポーツ新聞のアンケートでは、それでもライカールトを支持したファンが60パーセントを越えたという。人気は衰えない。なぜだ?わからん。
「悲しすぎる。だって、ずっとこのタイトルを獲ることだけを考えていたから」とはロナウジーニョ。気持ちは、誰もが同じだろう。92年にドリーム・チームが東京に忘れてきたタイトルを獲りにきたんだから。
このショックを引きずりながらバルセロナに戻った彼らは、3日後にアトレティコと戦った。後半のボールポゼッションが70パーセントというから驚きだ。しかし、バルサはボールを支配していながら、同点に追いつかれた。「もしかすると、4対0で負けていた可能性も」とアギーレはいう。これはもう、インテルナシオナルと似たようなものだ。攻め込んでいて、カウンター1発でやられる、悪循環。しかも、後半に。
攻めあぐねて、カウンターを食らうのはバルサの伝統である。追加点を奪うには攻め方を変える必要がある。相手も研究しているからそう簡単には決まらない。そこで、後半の選手交代がカギになる。
最近のゲームでいえばイニエスタを右サイドに配置しているのだが、ここの選手交代がライカールトの弱いところでもある。
どうも、ライカールトは決断が遅い。テン・カテがいなくなったからというもう使い古された理由ではない。彼の性格だ。悪い流れだからそう思えてしまうのかもしれないけども、ワンパターン、驚きがない。インテルナシオナルとの決勝では、もっともっと早く、グジョンセンをベンチに下げるべきだった。ゴールが欲しいのに、88分に交代というのは遅すぎる。サビオラかドス・サントスを投入しても良かった。
それに比べてカペッロは、スパッと選手、戦術を切り替える。どちらが、いいか悪いかはわからない。ライカールトのように我慢してうまくいくときもあれば、その逆も。早めの判断が流れを引き寄せることもあれば、逃すこともある。
12月20日のレクレアティーボ戦。レアル・マドリーはベルナベウで3ゴールも奪われて、負けた。カペッロは前半でエメルソンに替えてロビーニョを投入したが、後半開始7分にウチェに追加点を奪われた。最悪のパターンだ。しかも、先制点と2点目はカンナバーロのミスから生まれた。バロンドールもFIFAワールドプレーヤーも泣いている。
レアルもまた、リズムが悪い。ただ、19歳のメッシがバルサを救った例がある。レアルには19歳のゴンザロ・イグアンと18歳のマルセロが1月から登場する。若い血が必要だ。
バルサもレアルも、2月からはチャンピオンズ・リーグが再開する。バルサ対リバプール。レアル・マドリー対バイエルン。本命とはいえないバルサとレアルの今後は、スペインリーグの未来にもかかわる。
「バルサは代表チームで、インテルナシオナルはクラブチームだ。クラブが代表に勝てたのはすばらしいことです」
なるほど。古巣の勝利を祝うドゥンガの言葉だ。バルサだけでなく、レクレアティーボに負けたレアルにしても、クラブとしての雰囲気が薄れてきているのか。2007年。バルサとレアルの復活のカギはそのあたりにありそうだ。