佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
24周遅れの理由
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2005/06/16 00:00
70周レースの47周目、モントリオールのプレスルームがドッと沸いた。
モニターTVに佐藤琢磨がピットから発進、コースに出て行くシーンが映ったからだ。
アレッ!?と、筆者も一瞬思った。
たしか琢磨は1回目ピットストップの数周後に再びピットイン。マシンはそのままガレージに入ったからリタイアではなかったのか……。それが戦線復帰とは、まるでゾンビ。「ル・マンじゃないんだから」の声も聞こえる。
ともあれ24周遅れ(!)で、琢磨のこの日2回目のレースが始まった。
残念ながら復帰したレースを琢磨はまっとうできなかった。66周目(琢磨自身の41周目)のヘアピンでブレーキングに入った彼のマシンはいきなり右を向いたかと思うやスピン!後ろ向きになったまま退避路に入って止まった。後輪のブレーキ周りから煙が上がって一瞬発火。マシン後部は消化剤の泡で白く汚れた。今度こそ本当のリタイアだ。
それにしても琢磨とBARホンダはなぜ入賞の可能性がまったくない2回目のレースをやったか?答は誰もが薄々感じていた。次戦アメリカ・グランプリの予選出走順位をひとつでも上げるためだ。
今年の予選方式は、前戦の“逆”成績順でアタックが始まる。レース序盤にリタイアしていれば琢磨が第一アタッカーになるが、それはいちばん避けたいことなのだ。
琢磨自身もたびたび言っているが、最初の番は路面が汚れてゴミが溜まり、グリップ感が乏しい。それが2番手になると驚くほど条件がよくなって、3番手以降は前車がアタックするたびにタイヤのゴムがレコードラインに乗ってさらにグリップ感が増す。おそらくこの予選方式でなければ琢磨は再びコースに出ることなどなかったろう。
それにしても何の修理に24周もかかったのだろう?レース後理由を聞いて唖然とした。なんとギヤボックスをそっくり取り替えたのだという。レース中のギヤボックス交換はル・マン24時間など長距離レースでは例がないでもないが、おそらくF1史上初めてなのではないか?むろん、琢磨自身も初めての経験である。
琢磨らしいなと思ったのは、予選出走順位を上げるのはもちろん「多くを望めないことは分かってましたが、ファンのみんながボクの走りを楽しみにしてくれていたので、走れるものなら走ろうと思った」とレース後語っていたことだ。泣かせるセリフではないか。
再び走ったかいあって琢磨は完走扱いにこそならなかったが40周を消化、結果表の15番目にランクされた。ということはアメリカでは5番目のアタックとなるが、モントーヤが失格となって結果表に名前が載っていないからアメリカでは彼が最初のアタッカー。このままなら琢磨は6番目である。そしてその2番後がチームメイトのバトン。琢磨がアタックしたラップのデータはバトンのアタックの重要な参考になる。
“蘇った”琢磨の1週間後、アメリカ・グランプリが楽しみである。