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規制がF1をつまらなくする。 

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海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2005/06/17 00:00

規制がF1をつまらなくする。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

 去年は、フェラーリにはかなわなかったが、BARホンダの年だった。だから今年はさらに期待できると思ってシーズンがはじまるのを楽しみにしていたのが、前半戦はまったく見るべきものがなかった。

 「いや、そう簡単にはいかないよ。今年は、フェラーリに対抗するために、ルノーもマクラーレンもきっといい車を作ってくるはずだから」

 久しぶりに会った桜井淑敏氏がそういったのは、シーズンがはじまる前の1月の末だった。さすがに現場を知りつくしたホンダF1の元総監督というほかないが、はたしてそうなったのである。

 ルノーとマクラーレンは、BARホンダはおろか、フェラーリまでも凌駕してしまった。昔から変わらぬF1の面白いところだ。あるチームが抜け出すと、必ず別のチームが戦いを挑んで、レースにはげしい競争をもたらす。そしてそれがF1の高い質を保ってきたのである。

 しかし、全体的に見ると、F1は年々つまらなくなってきている。とくに、ターボエンジンで1000馬力以上のパワーを出して走っていた1980年代のF1を知っている者には、規制でがんじがらめにしてしまった最近のF1はまったくものたりない。

 規制の目的は、おもに安全のためのスピード抑制だが、'80年代の後半にはターボエンジンの過給圧が制限され、続いてターボエンジンそのものが禁止になって、ノーマルアスピレーションエンジンだけになった。それから、スリックタイヤが禁止され、今年からは、1基のエンジンで2レースを走ることと、タイヤは1レースで1セットしか使えないことが決められた。

 だが、安全のためのスピード抑制という目的は認めるにしても、それらの規制のどれがレースを面白くする役割を果たしただろう。反対に、1レースで1セットという今年からのタイヤ規制は、ニュルブルクリンクでおこなわれたヨーロッパグランプリで実に危険きわまりないことが証明された。

 トップを走っていたマクラーレンのライコネンが最終ラップで右フロントサスペンションを壊し、きりもみ状態でコースをすべって行くのを見て思わず目をおおった人は多いだろう。タイヤ交換できないために傷めたままのタイヤで走りつづけた結果、バイブレーションが起きてサスペンションが折れてしまったのだった。

 そんな危険な目にあいたくなかったら、タイヤを傷めないようにゆっくり走れというのだろうか。1レースで1セットというタイヤ規制は、そういっているように見える。つまり、F1に乗ってもレースはするなということだ。

 1基のエンジンで2レースを走るというエンジン規制もそうだ。エンジンを長持ちさせたいならゆっくり走れといっているのである。たしかに、そうすれば安全だ。しかし、それがF1といえるだろうか。すくなくとも、ぼくはそういうF1は見たくない。スピードを抑制するなら、たとえば燃料量を規制する方法もあるし、ドライバーを危険にさらさなくてもできる方法は他にもある。このままではF1はF1でなくなってしまう。

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