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「良いサッカー」をドイツで観た。 

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杉山茂樹

杉山茂樹Shigeki Sugiyama

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2005/10/04 00:00

「良いサッカー」をドイツで観た。<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 満員のホームで2−2。シャルケ04にとって引き分けという結果は、けっして満足できるものではないが、少なくとも第3者には、予想を上回る好印象を与えた。アウェー戦を引き分けに持ち込み、それなりの風格を見せたミランより、確実に「良いサッカー」をしていた。「良い」とは、効率的で、攻撃的で、美しくて……という意味なのだけれど、それに、新鮮さが輪を掛けた。

 ドイツといえばバイエルン。そのバイエルンは、前日、ホームでクラブ・ブルージュに1−0の勝利を飾っている。ミラン同様、それなりの風格を示したわけだが、人の心を打つような「良いサッカー」をしたわけではない。率直にいって勝っただけ。「良いサッカー」をしていたのは、ブルージュの方だった。同じ日にパナシナイコスに敗れ、2連敗スタートを切ったブレーメンの戦いぶりは、直に見ていないのでコメントは差し控えるが、いわゆるドイツサッカーから「良い」匂いを嗅いだ例は、01〜02シーズンのレバークーゼンを除いてほとんどない。

 およそドイツらしくないサッカーの前に、ミランはたじたじとなった。シャルケ53%対ミランは47%。ボール支配率でもシャルケが上回ったのは、加茂サンではないけれどゾーンプレスと称したくなるプレッシングに原因がある。高い位置でボールを奪うことができるので、チャンスが増える。組織的にそれが行われていることは一目瞭然。知名度の低いシャルケの選手が、知名度の高いミランの選手からボールの奪取に成功する姿は痛快この上なく、そこにサッカーの面白さが端的に集約されていた。

 チャンピオンズリーグオフィシャルマガジンの最新号を見て納得した。「10人の若手監督たち」というその特集記事の中で、ラルフ・ラングニック監督(46)は、堂々トップページで、紹介されていたのである。さらに、「ゾーナル・マーキング」という戦術特集の中でも、彼の考え方は本文中に幾度も登場していた。戦術家であることは疑う余地のない事実。一昨季はモウリーニョ。昨季はベニーテス。そして今季はラングニックかと言いたくなるが、シャルケの現在の成績は1分1敗、勝ち点1。グループEで最下位に甘んじている。残りは4試合あるので、グループリーグ突破の可能性は十分残されているが、苦戦を強いられていることは確かだ。

 モウリーニョは、ポルトの監督としてチャンピオンズリーグを制したことでチェルシー監督に抜擢された。ベニーテスもバレンシアの監督としてUEFA杯を制したことがリバプール行きの背景にある。そういう意味で、僕はシャルケのグループリーグ突破を願ってやまない。この世界、やはり結果を出さないと一流の証は得られない。

 ドイツサッカーの問題を端的に言えば、ドイツ人が欧州の他国から必要とされていない点にある。他国のクラブで活躍しているドイツ人はほぼゼロ。欧州サッカー界がすっかり無国籍化したいま、これは珍しい話だ。指導者もしかり。ユーロ2004を制したオットー・レーハーゲルのようなケースも中には稀に存在するが、少なくともクラブレベルで、ドイツ人監督が重宝がられている様子はない。隣国オランダと比較すれば、一目瞭然になるのだけれど、人材を外に輩出していないことが、ブンデスリーガの欧州リーグランキングを、5位にまで下げてしまった最大の原因だと僕は思う。

 他国のクラブが引き抜きたくなるような優秀な人材に乏しいから成績も落ちるという見方も成り立つが、他国にドイツ人がいないと外に目が向きにくいという弊害に陥ることも事実。もし欧州で活躍する日本人が誰もいなければ、欧州サッカーへの関心は、現在の半分程度といったところだろう。

 ドイツのバランスは、いまそういう意味で最悪だ。そして、シャルケのドイツらしからぬ「良いサッカー」を眺めていると、とても惜しい気持ちになる。サッカー好きのライターとしては、つい広告宣伝に力が入る。というわけで、頑張れ!シャルケ04。

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