セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
ミランvs.インテルの罵り合いを収めたビエリ。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byGetty Images/AFLO
posted2007/05/10 00:00
欧州チャンピオンズリーグ準決勝で、マンチェスター・ユナイテッドを3−0で下したミランの快挙を称えるイタリアメディアとミランサポーターの狂乱ぶりは、2季連続15度目のセリエA制覇を果たしたインテルの栄誉を忘れさせてしまう勢いだった。
今季、絶対的な強さでスクデットを獲得したインテルだが、結果的には欧州制覇の可能性を秘めたミランのほうがインテルを上回る出来と評価する報道が立て続き、苛立つインテルは宿敵へのバッシングを決行したのである。
インテルのモラッティ会長はメディアに対して「セリエA不正問題の渦中にあったミランはチャンピオンズリーグに出場すべきではなかった」とミランを非難。さらに「ミランは欧州を制覇できない」という発言によって、ミランとインテルの間の溝は一層深まり、両クラブはついに「宣戦布告」した。
幹部間の確執が表面化したことで、選手やサポーターも黙ってはいない。熱狂的ミランサポーターとして知られる某イタリア人俳優が「スクデットというのは、欧州チャンピオンズリーグ出場を確保するための手段にすぎない。価値あるタイトルはチャンピオンズリーグ制覇なのだ」といえば、インテルのサポーターは「今季のセリエAでインテルはミランに2度も勝っている」と血眼で反論する。モラッティ発言に激高したミランのMFセードルフが、「モラッティ会長は(インテルが)負けているときはジェントルマンだが、今となっては我々に褒め言葉もかけられない」と批判した翌日には、インテルのマンチーニ監督が「(スクデットという)目的を遂行し、リーグ戦では黒星1つのインテルが最強であることに変わらない」と言い切る。限度を超えた両クラブの言い争いにミラノの街も2つに割れた。
激論が飛び交う真っ只中、両者の口を封じたのは元イタリア代表でアタランタのFWビエリによる復活弾だった。かつてインテルとミランに所属した34歳のベテランストライカーは、第35節のシエナ戦で約45メートルのロングシュートを決め、19カ月ぶり(2005年10月26日のミラン−エンポリ戦以来)の得点を決めた。55分から途中出場したビエリは、その10分後に衝撃的な勝ち越しゴールを叩き出しただけに留まらず、全盛期と遜色ないプレーで復活をアピールしたのだ。
同じ日、ミランはMFカカがPKを失敗してフィオレンティーナとドロー。インテルは、降格が確定したメッシーナ相手に、クレスポが決勝ゴールを決めたこと以外は拍子抜けする試合内容だったことから、ビエリのゴールは多くの人々を目覚めさせる効果があった。古巣である2クラブを脇役に追いやり、イタリアメディアを釘付けにするビエリのパフォーマンスに、インテルもミランもくだらない喧嘩にピリオドを打つ気になったようで、その日から暴言、雑言をパタリとやめることとなった。
ビエリのゴールは、インテルとミランの罵り合いよりも、数倍美しかったのである。