佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
ヨーロッパラウンド初の完走
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2006/05/19 00:00
「シーズンが始まる前からここスペインのコースがいちばんの“壁”だと思っていました」
カタルーニャ・サーキット入りした佐藤琢磨は最初から苦戦を予想していた。
「ダウンフォースの絶対量が圧倒的に不足している我々のようなマシンは、長い時間回りこむコーナーが多いこういうコースが苦手なんです。ニュルブルクリンクのように、直線が低速コーナーにつながるコーナーが多いサーキットなら相対的に他車との差がでにくいんですけどね」というのが苦戦を覚悟する根拠である。ちなみにカタルーニャに似た性格のコースとして琢磨が挙げるのはシルバーストン(イギリス)と鈴鹿である。
ところがいざ走り出してみると、必ずしも圧倒的に遅いわけではない。
金曜日はトップタイムを出したデイビッドソン(ホンダ)の3秒落ち。土曜日午前中は首位シューマッハーの3.2秒落ちの20位で、直接のライバルであるミッドランドのアルバースを食ってしまった。
その勢いのまま予選1回目に突入し、第1回予選で敗退したのはいつもと同じだったが、ここでもアルバースを下している。チームメイトのモンタニーは最終コーナーを飛び出して琢磨の2.6秒落ち。さらにクルサードがコースアウトし、ノータイム。ビルヌーブがエンジン交換で最後尾に回ったため、琢磨は19位から決勝に臨んだ。
「ダウンフォースそのものは増えてないんですけど、空力バランスが取れて来たのと、タイヤとの相性がよくなった結果だと思います。ここから先はマシンを根本的に底上げして、ダウンフォースの絶対量を上げるしかない」と、好結果の理由を推測する。要は現状のSA05の潜在パフォーマンスのすべてを絞り出してなお、この位置にしか来られないということでもある。
期待がかかったカミソリ・スタートは、抜きにかかったモンテイロによって阻まれた。琢磨を外に押し出すようにモンテイロは左へ左へと寄って来たのだ。行き場を失った琢磨は、スタンド側のダートにはみ出してしまう。それでも1コーナーの争いで2〜3台のマシンを抜いて本来の19位あたりまでポジションを戻したものの、タイヤが土で汚れてグリップが極端に落ちてフラフラしながら走っているところを逆に3、4台に抜かれ「さんざんな1周目になってしまった……」と、琢磨は苦笑する。
その後もマシンのバランスは予選時ほどよくなく、オーバーステアの苦しい走行を続けていたが、10周目の3コーナーで外にはらんで360度スピン!予定外のピットインを強いられ、チームは本来2回ストップだった給油作戦を3回に変更する。
結果は4周後れの17位だったが、琢磨にとってもスーパーアグリF1チームにとっても、第3戦オーストラリア以来3戦ぶり、ヨーロッパ・ラウンドに入って初の完走となった。
「スピンでピットインした後はいい感じで走れました。2回目のピットインでマシンを調整して、3回目のピットインの後はペースも上がりましたから。久しぶりのチェッカーでしたね」と、レース後の琢磨の表情は活き活きしていた。
しかし、2週間後はこれまた難コースで定評あるモナコ。鈴木亜久里代表は「あのコースを乗りにくいクルマで走るんだからドライバーは大変だよ。ボクも走ったことがあるから想像できる」と言い、琢磨自身も「ちょっとしたことで大げさなアクションをするこのクルマでモナコを走るのは大変でしょうね」とうなずく。しかし「ブレーキングの安定性はよくないけど、コーナーに入ってしまえばトラクションは悪くないから…」と、決してあきらめてはいない。
スペインのレースで佐藤琢磨はF1参戦後初めて左掌に肉刺(まめ)を作った。比較的スムーズな路面のカタルーニャでもこうだ。モナコではもっとマシンが暴れまくる。それでも琢磨には「サプライズ」を期待しないではいられない。