佐藤琢磨 グランプリに挑むBACK NUMBER
どこまで続くぬかるみぞ……
text by
西山平夫Hirao Nishiyama
photograph byMamoru Atsuta(CHRONO GRAPHICS)
posted2006/05/12 00:00
「予選グリッドがレーシングライン(マシン通過路)じゃなかったし、出足もよくなく、前のクルマに加速で並んだくらい。スピードの伸びもなかったんですけど、1コーナーに入るのにいいラインを見つけました」
コース上ホコリが多く、出足のダッシュが利かないイン側予選20位ポジション。佐藤琢磨はそこから真っ直ぐ1コーナーを目指していたが、ストレート途中からアウト側に進路を変え、大外から立ち上がる。このライン取りがよかった。
ニュルブルクリンクの1コーナーは漏斗の先がすぼまるような“ニードル・ヘアピン”状になっているからマシン群が密集。左右前後がフンづまって必ず接触のアクシデントが起きる。そのことを察知したかのように琢磨は一気に後方集団から抜け出し、1〜2〜3〜4コーナーを抜けて短い直線に入る頃にはなんと12位(!)までジャンプアップしていた。20位から12位へ、まさにゴボー抜きだ。
しかし、ここまでのわずか数十秒が佐藤琢磨のヨーロッパ・グランプリのハイライトだった。
「1コーナーまではいい感じで来たんですが、オープニングラップのヒルトップで1台、最終シケインで1台、2台に抜かれました」
せっかくの驚異のジャンプアップも、圧倒的に低いSA05のマシン・パフォーマンスを覆すことにはつながらない。なすすべもなく抜いたマシンに抜き返され、1周目14位、2周目15位、4周目17位、6周目18位、12周目19位。後方は新チームメイトのF・モンタニーだから、奮戦むなしく定位置に戻ってしまったのだ。
それでも完走を目指して粘り強く走り続け、上位の脱落もあって29周目には16位まで盛り返す。だが41周目の2回目ピットインで空気取り入れ口付近から横に伸びる簪状のミドルウイングに給油装置が当って折れ、それは走行には別条なかったが、2回目ピットインからわずか4周で琢磨はピットに舞い戻り、そのままガレージに入って二度とコースに出て来なかった。2戦連続のリタイアである。
「マシンに変なところはなかったんですが、ピットから“入れ”の指示が来たので戻りました。油圧系のトラブルらしく、オイルが出ていたようですね」
淡々としたコメントのレース後の琢磨だったが、完走してデータを残すことが決勝でのSAF1チームの唯一“できること”だけに、琢磨としても虚しい一戦だったろう。
「すばらしかったよ、あのスタートを“決めた”のは。だから悔しいよね。あの琢磨の走りに応えられるクルマをすぐ用意できないのが悔しい」と、レース後の鈴木亜久里代表。
新車SA06デビューは早くて5週間後の7戦イギリス(6月11日)。そのタイミングを逃すと北米2連戦の後の第10戦フランス(7月16日)になりそうである。どこまで続くぬかるみぞ……は、いまの佐藤琢磨のためにあるかのようなフレーズである。