総合格闘技への誘いBACK NUMBER
年末興行、視聴者が求めるものとは。
text by
石塚隆Takashi Ishizuka
photograph bySusumu Nagao
posted2006/01/06 00:00
年末年始の時期を迎えると必ず考えることがある。『PRIDE男祭り』と『Dynamite!!』の大晦日の格闘技興行戦争は、果たして格闘技界にとってプラスなのか、あるいはマイナスなのか?
この問いに、「YES」と「NO」といった二元論の答えはないかもしれない。
ここ数年の大晦日興行で格闘技はすっかり世間に認知されるまでに至っている。昨年末は、一昨年末に比べテレビ中継の平均視聴率を下げたものの、いまだ『紅白歌合戦』を裏にまわし、数字を稼げるキラーコンテンツは格闘技以外にありえないと言っていいだろう。実際、これほどの競技のメジャー化は、選手の育成・普及はもちろんのこと大きな経済効果をも生み出し、また前線で働く我々記者にとっても喜ばしいことである。そのことは否定しない。
ただ、その“質”に疑問を抱かずにはいられないのだ。
必要以上に対戦をあおり、過度なまでに選手を追い詰めるメディアの姿勢。視聴者が喜ぶKOや一本を誘発するためにマッチメイクされる実力差のある選手同士による対戦。極めつけは、芸能人が出てきてリングで試合を行なう……。これは一体いかがなものか?
もちろん選手たちには罪はないし、彼らの本気はちゃんと伝わってきてはいる。
その傾向は、視聴率の理論、つまりテレビの考え方とすれば納得はできるのだけれども、しっかりと格闘技を見たいファンや、ブレのないがっちりとしたモノを書きたい記者としては、なかなか心中複雑なのである。
もちろん、五味VS.マッハやKIDVS.元気、あるいは吉田VS.小川、ミルコVS.ハントといったレベルも高く華や意義を感じられる対戦もあるにはあるが、この大晦日の場では『全体のなかのひとつ』といった風情で、質の低いカードと無駄に相殺し、相乗効果なくいささか淋しさを感じてならなかった。気持の乱高下とでもいおうか……。
「お祭りなんだからいいじゃん」といった意見もあるし、その観かたも然りかと思う。ある意味、節操がなくても面白ければいいのかもしれない。
しかしながら、質の低下の氾濫は結果的に人離れを招くことを忘れてはならない。年末のようにお茶の間の人がたくさん観る機会ならなおさらだ。なんと言っても日本人は、世界一格闘技の見方を知っている国民なのだから。大晦日に、裸のオトコたちが戦う姿をテレビで注視している民族は世界中探してもそうはいない。
そして昨年末、これまで右肩上がりで順調に伸びていた視聴率が初めて下がった。危機感がつのる。今年末もおそらく格闘技興行戦争は行なわれることだろうが、関係者たちにとって正念場になることはまちがいないだろう。
そのリスクを軽減するためにも年末に至るまでの興行が大切になってくる。昨年、『PRIDE武士道』のライト級トーナメントが五味VS.マッハを、『HERO'S』の中量級トーナメントがKIDVS.元気といった好カードを生み出したように、今年も新たなアイディアと展開が重要だ。格闘技界の未来のためにも“飛び道具”的なカードに頼らない、“実”のある展望を期待したい2006年である。