スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
世紀の対決と血液検査。
~パッキャオvs.メイウェザー戦を阻む場外乱闘~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2010/01/10 08:00
昨年11月、5階級制覇を達成したパッキャオ(左)と、同9月に現役復帰した無敗の元5階級制覇男、メイウェザー。ファン垂涎の一戦だが
マニー・パッキャオとフロイド・メイウェザー・ジュニア。いま、ボクシング界の世紀の対決といえば、ウェルター級に君臨する二強の激突に尽きるだろう。
パッキャオが2009年の最優秀ボクサーであることは、衆目の一致するところだ。5月にはリッキー・ハットンを2回でKO。11月にはミゲール・コットに12回でTKO勝ち。アジア人初の5階級制覇という事実も驚異的だが、磨きのかかった左右の強打で相手に襲いかかる試合内容は圧倒的に面白い。
一方のメイウェザーは、2007年5月に史上初めて「無敗のままでの5階級制覇」を達成した逸材だ。対戦相手を子供扱いする抜群のスピードと狙い撃ちの的確さ。いったんは引退を表明したが、昨年9月には1年9カ月ぶりにリングに戻り、難敵フアン・マヌエル・マルケスを手玉にとって健在ぶりを示した。通算成績は40戦40勝25KO。依然として土つかずの戦歴は、50勝(38KO)3敗2分けのパッキャオと比べても遜色がない。
薬物使用か、名誉毀損か? 平行線をたどる両陣営の主張。
そんな両者の対戦が、もしかすると今年の3月13日に実現する。場所はラスヴェガスのMGMグランド。ビリングはメイウェザーの名前が先(つまり、「メイウェザー対パッキャオ」と表記される)。契約ウェイトは147ポンドで、体重がオーバーしたほうは1ポンドにつき1000万ドルの違約金を支払う。
条件はここまで具体的に詰められたが、ひとつだけ問題が残っている。メイウェザー側が持ちかけた「第三者による五輪スタイルの血液検査」にパッキャオ側が難色を示しているのだ。
「五輪スタイル」とは、試合の前後に血液と尿のテストを行うことを意味する。パッキャオは、試合後の検査には同意したものの、試合前の検査はファイトに悪影響を及ぼすという意見を変えていない。彼が代替案として持ち出したのは(1)試合発表記者会見の週に最初の検査、(2)試合30日前の検査、(3)試合終了直後の検査の3本立てだ。しかしメイウェザー側は、ヒト成長ホルモンやEPO(運動機能を高めるステロイド)の検査などは投与後48時間以内に行われなければ意味がないと主張してやまない。
ざっくりいってしまうなら、メイウェザー側は、筋肉量をどんどん増やしてこの2年間で3階級を制覇したパッキャオの快進撃に疑惑の眼を向けている。一方パッキャオ側は、メイウェザー側が「試合を流したい一心で」難癖をつけているという謀略説をとって譲らず、名誉毀損で訴訟を起こすに至った。