セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
インテルを変えるマンチーニの呪術。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byAFLO
posted2004/07/27 00:00
インテルは、今シーズンも「勝つため」に多額の出費を余儀なくされたが、過去に比べると、「勝つため」の補強に成功したのではないか。若手の実力者、ロベルト・マンチーニを新監督に迎え、加えてセリエAで豊富な経験を誇るアルゼンチン代表のMFヴェロン、オランダ代表のMFダビッツの獲得に踏み切ったことを見ると、クラブの幹部がようやく「勝つための必須条件」に気付いたといえるかもしれない。
これまでは、最強クラブを結成する目的であるはずの監督及び選手選びの方針が一向に見えていなかった。つまりは早計なマーケティングはチームの空洞化を促した。しかし今季のインテルは、このような茶番劇を断ち切り、最強チームを作る上での基本的な現実に目覚めたようだ。
マンチーニ新監督については、数々のタイトルを獲得した輝かしい現役時代もさることながら、監督としても、フィオレンティーナ、ラツィオでイタリア杯優勝に導いたほか、UEFA杯準決勝進出、チャンピオンズリーグにも出場など、欧州での舞台でも実績を挙げている。また、選手達に闘う気持ちを植え付けることに長け、給料未払いという厳しい境遇に置かれたラツィオの選手たちのモチベーションを高めた。「闘う心を伝える監督」として、イタリア紙はマンチーニの力量を絶賛した。15年ぶりのスクデット(リーグ優勝)奪回を期すインテルにとって、このマンチーニの呪術は、正に「勝つため」の絶対条件といえる。
戦力面では、攻守にスキのないチームを目指し、ベテラン選手を効果的に補強した。アルゼンチン代表のMFキリゴンザレス、オランダ代表のMFファンデルメイル、トルコ代表のエムレなど代表選手を揃えはしたが、結局セリエAの新参者であった彼らはプレースタイルに戸惑い、意味のない反則などでチームの足を引っ張ることになった苦い過去。モラッティ名誉会長は、幾度も新戦力の補強に失敗しているだけに、今回はセリエAの経験者に期待を託した。
ユベントスに匹敵するセリエAの名門クラブであるインテルは、決して勝てないことに甘んじてはならない。むしろタイトルに疎遠となった現状は、恥でしかないのだ。
「勝負に勝ってこそインテル。勝ち続けることで楽しみも倍増するサッカーを築きたい」と、マンチーニ監督は今シーズンの抱負を語った。彼が望む「楽しめるサッカー」とは、ベテランと若い世代の選手を融合させること。更には監督と選手に距離感を置かず、チームが一体化することこそが復活への第一歩につながると確信している。近年クーペルが、インテルをスクデット及び欧州チャンピオンズリーグ制覇の一歩手前まで導いたことがあったが、氏の高い年齢とアルゼンチン人の頑なな気質とが選手との間に溝を作り、最終的には選手達から反感を買い、指揮官としての信用を失うことになったからだった。
チャンピオンズリーグの予選まで1ヶ月を割った。マンチーニが指揮を執る新生インテルが長年の夢を掴むことを望んでいる。