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何かを背負っている。 

text by

松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

PROFILE

posted2008/08/13 00:00

 中国に実力の差を見せつけられた体操男子団体決勝の日本。アテネに続きオール一本勝ちで、柔道の醍醐味を示した谷本歩実。

 12日、見てまわった競技それぞれに、語るべきものがあった。

 そしてもうひとつ、印象深い光景を目にした。

 五輪の魅力のひとつは、ふだんなかなか目にする機会のない競技を楽しめるところにある。競泳決勝−体操男子団体決勝−柔道とまわった12日、時間の合い間を縫って、アーチェリーの会場へ向かった。

 一見地味なように思えるが、間合いを取り神経を研ぎ澄まし、的へ矢を射つ姿は磨かれた美しさを感じさせる。しかも的は、男子なら最大90m、女子なら70mの向こうにあるのだ。その真ん中を射抜くことができるとは、驚嘆すべきことである。

 アーチェリーのスタジアムは、メインプレスセンターからバスで15分ほどのところ。ホッケー、テニスのスタジアムに隣接している。その周囲はただただ広大な緑が広がる。

 シャトルバスを降りるやいなや、会場から歓声が聞こえてきた。スタンドに上がると、観客席は7、8割方埋まっていた。アメリカ、メキシコ、韓国、日本、出場している選手の母国の応援団が陣取り、一射ごとに歓声や声援をあげているのだ。ふだんのアーチェリーの大会では観客は少なく、粛々と行なわれる様を見慣れていたから驚きだった。

 色とりどりの国旗が振られている。北京でこれまで見てきた競技では、どうしても中国の人々の姿と紅い旗が目立っていたから新鮮な気分になる。

 負けたオーストラリアの選手が涙にくれている。韓国の選手がガッツポーズをする。選手たちの熱気が伝わってくる。

 日本からは北畠紗代子、早川浪、林勇気の3人が出場していた。

 北畠は初出場のシドニー五輪で5位入賞。団体戦でメダルを期待されたアテネでは上位進出はならず、今回が3度目の出場の選手。何度か話を聞いたことがあるが、アーチェリーに懸けてきた思いと、真摯に取り組む姿が印象に残っている。昨年、恩師と仰ぐコーチが逝去、恩返しを誓って臨んだ北京である。

 早川はジュニアの頃から韓国で将来を嘱望されながら競技を離れたものの、来日し再開、帰化して日本代表の座をつかんだ。そして林は、堀場製作所の社員。仕事のあと夜間にこつこつと練習に取り組み、仕事と両立させながら代表入りを果たした。

 残念ながら北畠は2回戦で敗れ、林は初戦で敗れた。だがアーチェリーは息の長い競技だ。これから再びチャレンジすることは可能なはずだ。

 唯一勝ち残ったのは早川。ベスト16進出を決め、14日に上位進出を目指し戦うことになる。

 「初戦から緊張はありました」

 今日の最終試合のあと、勝ち残ってほっとしたような表情の早川は、続けてこう言った。

 「韓国の人々は、私のことを悪く思わないでくださいと思うだけです」

 それぞれの軌跡を描いてたどりついた北京。アーチェリーばかりではない、すべての会場で、選手たちはきっと何かを背負いながら戦っている。

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