Column from GermanyBACK NUMBER
バイエルンもたつきの原因。
text by
安藤正純Masazumi Ando
photograph byAFLO
posted2004/09/28 00:00
バイエルン・ミュンヘンがもたついている。マガート新監督の就任で、それまでの甘い選手管理が見直され、開幕前は徹底的な体力強化が図られたが、何だか調子があがらない。
当初、選手もフロントも「今季はやれるぞ」と相当に自信を持っていた。ゼ・ロベルトは「こんなにキツイ体力トレーニングは初めて。でもおかげで、万全のコンディション臨める」と序盤からの猛ダッシュを意気込んでいた。ところがいざフタを開けてみたら、アレレなのである……。
ブンデスリーガはアウェーのレバークーゼンに大敗(第3節、1-4)、チャンピオンズリーグ初戦はイスラエルの泡沫候補にてこずった。そして21日のDFBカップはアマチュア相手にやっと3-2で突き放すことができた。これじゃ、まるで千鳥足で我が家にやっとこさ辿りついた“疲れたお父さん”みたいだ。
リーグ戦は25日現在で3勝2分1敗の4位。得失点2も、情けない数字だ。
体力は十分、選手は粒揃い、監督は実績と経験が豊富、フロントの有能ぶりは世界一。いったいなぜ不調なの?
それはマガートのサッカー哲学がいま、バイエルンのクラブ・カルチャーとせめぎ合いを演じているからである。博識で酒を飲まずストイック。マガートの性格はまるで中世の修行僧みたいだ。
彼はまた教育者タイプである。単なる勝利よりも「魅力的で、ドイツの見本となる」サッカーを追い求める。ボールテクニックでも体力面でも、彼なりの美学にこだわっているのだ。
しかしバイエルンは、とくにここ数年間のチームは「1にも2にも勝利あるのみ」と、プロセス軽視・結果重視でやってきた。だからこそ、オリバー・カーンの存在が一際目立ったのである。野獣と呼ばれようが、ゴツくて機械的と言われようが、“勝てば官軍”だったのだ。それがいつしか変えられない体質になってしまった。
ファンは、リスクを犯さず背後を固めカウンターから得点を奪う“超合理的サッカー”のバイエルンより、タイトルには無縁だがVfBシュツットガルトの優雅さ、あるいはレバークーゼンの流麗なパスサッカーのほうに魅力を感じるようになっている。
南米出身選手の長所を生かしきれていないバイエルンに対し、レバークーゼンではフランサとロッキ・ジュニオールが水を得た魚のごとく大活躍を見せているが、なんとも対照的なシーンではないか。
クラブの財政危機から未経験の若者を大胆に起用せざるを得なかったシュツットガルトと違い、バイエルンは最初から「大金持ちで経験豊富」な多国籍軍である。マガートだって移籍で給料は2倍にアップした。だが肩にかかるプレッシャーは2倍どころじゃない。
自信の理想と、チームの成績をどう整合させるのか。理想だけで飯が食えるほどバイエルンというチームは甘くない。