Column from Holland & BelgiumBACK NUMBER
バルサ会長が狙う18歳。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byPanoramiC/AFLO
posted2005/02/22 00:00
コンパニの父が、近づいてきたラポルタ会長にささやいた。
「気をつけてください! 横にベルギーの記者がいます」
バルセロナのラポルタ会長は大声で笑った。
「それが記者の仕事だから、気にしないでください。あなたの息子さんに、とてもいい印象を受けました。コンパニの獲得を真剣に考えたい。ライカールト監督と話すつもりです」
コンパニの父は、カンプノウのVIPルームに入っただけで緊張していたのに、さらに会長に突然のオファーを受けて、ただただ恐縮するしかなかった―――。
アンデルレヒト所属のDFビンセント・コンパニ(18歳)は、2月15日にバルセロナで行われた津波チャリティーマッチにベルギー人としてただひとり出場した。シフェフチェンコチームの一員として、ベンゲル監督の「DFが少ないから」というお願いで、本来はセンターバックスだが左サイドバックとして出場した。190cmの身長を生かしたヘディングだけでなく、パスもドリブルもうまい。すでにベルギー代表のレギュラーになっている若者に、バルセロナの会長は目を奪われた。それで試合後に、観戦に来ていたコンパニの父をつかまえたのだった。
こんなおいしい話を聞いて、ベルギーの記者が記事にしないはずがない。翌日のヘット・ラーステ・ニュース紙が「コンパニがバルセロナに移籍?」と一面で報道した。すでにアンデルレヒトのファン・ホルスビーク会長は「オファーが来たら、それは断れない」と、移籍金の条件さえ満たせばコンパニを手放すことを認めている。久しぶりにベルギーから、ビッグクラブへの大型移籍が実現するかもしれない。
最近、ベルギーから聞こえてくるのは、悪い知らせばかりだった。
前々回のコラムでも紹介したとおり、ベルギーのクラブは今季のチャンピオンズリーグとUEFAカップの舞台から全て敗退してしまった。そして、ベルギー代表も元気がない。2月のエジプトとの親善試合は0対4で大敗。代表選手は各クラブでも結果を出すことができず、たとえばFWソンクはアヤックスで出場機会がほとんどなく、ボルシアMGへ移籍していった。エミール・ムペンザはハンブルガーSVで高原直泰とのレギュラー争いに敗れ、ベンチに座る日々が続いている。国外のクラブで中心選手となっているのは、ハンブルガーSVのDFファン・ブイテンくらいだ。そのファン・ブイテンでさえも、「私の母はドイツ人なので、ドイツ代表を選んでおけば良かった・・・・・・」とグチる始末だ。
コンパニがベルギーリーグを去ることになったら、ベルギーリーグのファンは悲しむだろうし、アンデルレヒトの守備のレベルは確実に下がってしまうだろう。だが、もしコンパニがバルセロナのレギュラーになれたとしたら、覇気のないベルギー代表の何かを変えてくれるはずだ。チャリティーマッチでの18歳の DFとバルセロナの偶然の出会いが、ベルギーサッカー界にプラスとなることを期待したい。