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根深い人種差別問題。 

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酒巻陽子

酒巻陽子Yoko Sakamaki

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posted2005/02/24 00:00

根深い人種差別問題。<Number Web> photograph by AFLO

 最近、黒衣をまとったサッカー選手たちがみな口を閉ざし、「平等」を掲げたスローガンだけが浮き彫りになる映像がテレビで流れている。フランス代表でアーセナルに所属するFWアンリの提案による、人種差別を非難する某社のコマーシャルだ。プロパガンダを通じて、ようやく欧州サッカー界でも「Racists――人種的憎しみ」を追放する運動が本格的に始まったのだ。

 そのCMに続き、ヨーロッパ諸国では、スポーツ用品を取り扱うショップにて、平等を意味する白と黒の輪が交差するブレスレット(単価:2ユーロ)が販売された。先のイタリア代表のテストマッチ(ロシア戦)でも、選手たちがこのブレスレットをはめ、さらには白(イタリア代表)と黒(ロシア代表)のユニフォームを着用することで、「平等」をアピールした。

 時として、人の肌の色が問われるヨーロッパ社会。残念ながら、サッカー界にもこの卑劣な人種差別は根付いている。2000年10月17日のラツィオ対アーセナル戦(チャンピオンズリーグ)においては、DFミハイロビッチ(当時ラツィオ)がアーセナルの黒人MFビエイラに侮辱の言葉を口走った。昨年も、スペイン代表のアラゴネス監督による、アンリを侮辱する発言が問題視されるなど、スタジアム内での人種的偏見に基づく心苦しいエピソードは、あとを絶たない。

 イタリアには、「肌」に関するケース以外にも、北部イタリア人が南部出身者をさげすんで呼ぶ、「テローネ」という一種の「卑語」がある。「試合中に、『カンナバーロはテローネだ』との罵声が相手のスタンドで反響する。北と南や白と黒といった違いで、人と人との間に隔たりがあってはならない」とする、イタリア代表の主将DFカンナバーロ(ユベントス)による告発で、イタリア人の間でも「差別」が浸透していることが明るみに出た。

 経済的な理由から苦境に立たされるイタリア南部は、常に北部出身者の差別の標的となっている。つまり、卑賤を意味する「テローネ」は、「白・黒」と同じように、言うまでもなく人種的偏見だ。イタリアでは、肌の色に限らず、出身地さえも人種差別の対象となっていて非常に情けない。

 欧州サッカー連盟(UEFA)は、ヨーロッパ反ナチズム協会「FARA」の人種差別に関する指針に準じて、サッカー界における人種的偏見の撲滅に乗り出している。その一方で、残念ながらイタリアでは、深く根付く「南部出身者」への差別が、一向に改善されない。それどころか、南部への差別を撲滅する動きは、イタリア社会の中で「タブー」とされ、誰一人としてこれに関与しようとしない。着手するものが存在しなければ、改善どころか議題にもあがらず、実際に「テローネ差別」は、事実無根として闇に葬られている。

 かつてアメリカでブラック・モレスムが奮起した(黒人による統治などを主張した)ように、セリエAに所属するイタリア南部出身の選手達が団結し、「テローネ廃止」を声高に叫ぶ以外、他に対策があるとは思えない。

 勇気をもって「人種的差別」の追放に立ち上がった、今回のアンリの例だけにとどまらず、イタリア・サッカー界からも南部への偏見をなくしてくれる、進取的なイタリア人が出現することを私は密かに期待している。

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