リーガ・エスパニョーラの愉楽BACK NUMBER
支配するも、君臨せず。
レアル、ペジェグリーニ監督の指導術。
text by
中嶋亨Toru Nakajima
photograph byReal Madrid via Getty Images
posted2009/08/03 11:30
カカ、ロナウド、ベンゼマらを獲得して話題を振りまいたレアル・マドリーもその後は大きな獲得・放出のニュースもなく、7月10日にキャンプインした。マドリード、アイルランドで約2週間に渡って体力トレーニングを中心に行ってきたレアルは、現在は再びマドリードに戻りピース・カップに出場し、26日にはアル・イティハドとの初戦を行い、1対1と引き分けた。
未だカカ、カシージャス、セルヒオ・ラモスらコンフェデレーションズ杯に出場したメンバーはいないものの、ロナウド、ベンゼマらにとってのサンチャゴ・ベルナベウでの初戦となったこの一戦にはマドリディスタも大きな期待を寄せていた。だが、1対1という結果に加え、守備を固めたアル・イティハドを攻め切ることができなかった内容に手厳しいことで知られるマドリディスタたちはブーイングを行った。
ブーイングを受け流す指揮官に漲る、改革の手応え。
ホーム初戦でブーイングを受けたレアルだが、指揮官ペジェグリーニは落ち着いた様子を見せている。試合後の会見で彼はこう語っている。
「現在のチームは体力トレーニングが中心で戦術的な練習はほとんどしていない。それにもかかわらず、チームは高い位置からボールを奪い返す守備を何度も見せてくれた。これからは守備力をさらに高め、そこからより効果的に攻撃を仕掛けるための練習に取り組んでいくことになるだろう」
世界有数のアタッカーを与えられ、魅惑的なサッカーを求められているペジェグリーニはビジャレアル時代とは比べ物にならないほどのプレッシャーを受けていることだろう。だが、彼は初戦でブーイングを受けようとも手応えを感じているようだ。それは、ビジャレアル時代と同じ手法によってレアルでも予想通りの成果を挙げつつあるからかもしれない。アル・イティハド戦後のペジェグリーニの言葉の中には「戦術練習をしていないのに高い位置からボールを奪い返すことができた」というものがあるが、この状態こそがペジェグリーニのチーム作りがうまく行っているかどうかを判断する基準と言えるものだ。
練習メニューから見て取れる新指揮官のサッカー哲学。
ペジェグリーニのチームの特長は、選手間のバランスが良く攻守に連動できることだ。選手間のバランスが良ければ敵陣でボールを失ったとしても、高い位置でボールを奪い返して再び攻撃を仕掛けることができる。このような状態にチームを仕上げるために、ペジェグリーニは様々な練習メニューを有している。
そしてその最初に行われるのが、「体力トレーニングをしながらチームのバランスを整えていく」ためのメニューだ。ペジェグリーニがビジャレアル時代に不動の左SBとして重宝したスペイン代表カプデビラはペジェグリーニのトレーニングについてこう語る。
「ペジェグリーニの練習はボールを使うメニューが多い。体力トレーニングもボールを追いながら、試合の場面を想定しながら、というメニューがほとんど。ただ、走らされるというメニューはほとんどなかった」
実際、キャンプインしてから2週間、レアルはボールと共にほとんど全てのトレーニングを行っている。例えば、80mほどの距離を走るトレーニングもサイドの選手としてオーバーラップするという場面を想定して、逆サイドから中央を経由して敵陣深くに展開されたボールを追うように行われる。走るためのトレーニングであっても、ボールがあることで選手達は互いのタイミングや距離感を意識することとなり、自ずとチームはボールに対してプレーするバランス感覚を養うことになる。