Column from SpainBACK NUMBER
バルサのジオバンニ君に注目せよ。
text by
鈴井智彦Tomohiko Suzui
photograph byTomohiko Suzui
posted2005/10/07 00:00
一風変わった少年がいた。バルセロナのジュニア・ユースで彼を見たのは2年前のことだった。ロナウジーニョを意識しているその風貌と、ちょっとしたふてぶてしさは名前こそ知らなくても、とんでもない子どもだということだけは雰囲気で十分伝わってきた。バルサが見つけてきた少年だけに「とんでもない」のは当たり前のことなのだけれども。
いったい、どこの誰なのか。ブラジル人か?
思考はそこで終わった。これまでにも、ロナウド2世と呼ばれたブラジル人の少年もいたけど、どこかに消えてしまった。ファン・ハールが連れてきたババンギダにしても、いまはオリンピアコスの補欠である。うまくても、トップにたどり着けるかは別の話。だから、驚きはしたけれども、少年のことはすっかり頭の片隅に去っていった……。
いまのバルサの下部組織にはひと目でスペイン人でないとわかる選手が、各カテゴリーに数人ずついる。南米やアフリカの子どもたちが、揃っている。いわゆる青田買いだ。きっかけはいまから6年前、ミランやアヤックス、アーセナルなどのビッグクラブが動き出したことで、話題というか問題になってから。1999年当時のミランはフェロー諸島に住む12歳の少年の家族に5万ドルの契約金で申し込んだこともあった。バルサにすれば、うちも急がねば、と考えたのだろう。
先日、長いこと眠っていた少年の記憶が、叩き起こされた。
あのロナウジーニョの髪型を真似した少年はブラジル人ではなく、メキシコ人だった。つい先日行われたアンダー17世界選手権でチャンピオンに輝いたメキシコ代表の8番だった。なるほど。
ジオバンニ・ドス・サントスは弟のジョナサンとともにFCバルセロナでプレーしている。父親は80年代にブラジル代表にもなったジジーニョだ。現役生活の最後をメキシコのクラブ、ラ・ラサで送ったジジーニョは、メキシコ人の嫁との間に3人の男の子に恵まれた。次男坊がジオバンニだ。ジオバンニがバルサと契約するきっかけは、2001年にフランスで行われた世界大会。13歳からカンプ・ノウの近くに家族とともに過ごしているという。
ロナウジーニョも1997年にエジプトで行われたアンダー17世界大会で優勝している。得点王にも輝いた。バルサが、16歳のジオバンニにロナウジーニョの後継者として夢を描くのも無理はない。「カンプ・ノウで早くプレーしたい。でも、もし叶わなければオファーがある他のクラブに行くよ。まずは、バルサでの競争に勝つことだけどね」とジオバンニはいう。20歳まではバルサとの契約があるけれども、すでにいくつかのイギリスのクラブが彼に興味を示しているという。
メッシも13歳のときにアルゼンチンからバルセロナに渡った。7月にオランダで行われたアンダー20世界大会で優勝し、いまや右サイドをジュリと争うほどだ。アルゼンチン代表にも名を連ねている。そう考えると、もう数年後にはジオバンニがロナウジーニョと2トップを組むなんてことも、あるのかもしれない。
最近、メッシはスペイン人国籍を取得した。数年前まで無名だった彼も、一躍時の人となった。バルサの悪い流れを変えてくれそうな雰囲気も十分にある。人気もある。ほんのつい最近まで、メッシと同じロッカールームで着替えていたバルサの少年たちにしてみれば、現実的なモデルだ。「メッシの後に続きたい」と。そのなかにはメキシコ人も控えている。ジオバンニの名前は、もう忘れない。