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暴力の火種。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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photograph byAFLO

posted2005/10/06 00:00

暴力の火種。<Number Web> photograph by AFLO

 きっかけは、とても些細なことだった。9月15日のUEFA杯、ブロンビー対FCチューリッヒの試合前のことである。

 スイスのチューリッヒから、デンマークのコペンハーゲンに駆けつけたファンは約600人。彼らを乗せたギュウギュウ詰めの電車は、コペンハーゲン中央駅からブロンビーのホームスタジアムへと向かっていた。

 その途中、チューリッヒ・ファンの18歳の少年が電車の窓に、サインペンで落書きを始めた。大きさでいえば、10cmくらいのものである。

 だが、デンマークでは、どんなに小さくても落書きは厳しく禁止されている。アウェイサポーターにまぎれていた私服警官3人が、この少年を取り押さえようとした。

 突然のことに驚いた少年は、必死に逃げようとした。これを警官3人が取り押さえ、隠し持っていた警棒で殴りつけた。

 まわりのスイス人たちは正確には何が起こったかはわからなかったが、同じチームを応援するサポーターがデンマーク人に殴りつけられている。集団の防衛本能に火がついた。私服警官はあっという間に袋叩きにあい、電車がスタジアムの駅につくと、その3人は仲間の警官に助けを求めるために、ホームを這うようにして逃げた。

 もう暴力の火を、消せるものはいなかった。

 スイス人たちの怒りは治まらず、倒れた警官の上に飛び乗り、数人がその上でジャンプした。警官隊には空き瓶が投げつけられ、ついにデンマーク警察は威嚇射撃をしなくてはいけなかったほどだ。

 結局、スタジアム近くにいた警官がどっと応援に駆けつけ、ファン96人を取り押さえて暴動は鎮まったが、警官3人とファン1人に負傷者を出す惨事になってしまった。

 きっかけは、たわいもない落書きだっというのに───。

 今回の事件は、フーリガニズムが複雑化しているいい例だった。おとなしいと思われていたスイスのファンが、まさか警察官にストンピングをくらわそうとは誰も想像しなかった。彼らは特にスイスで危険視されていたわけではなかったのだ。

 昨季からUEFA杯にグループステージが設けられ、クラブにとってもファンにとってもUEFA杯の価値が上がっている。緊張感も増した。それゆえに、ちょっとしたことが暴動の火種になる。

 UEFA杯の舞台はビッグマッチに慣れない都市が多いだけに、今回の事件はスタディーケースとして多くの人に記憶されるべきだろう。

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