チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
クラブ経営は大人のお仕事。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byAFLO
posted2004/09/28 00:00
今季デポルティーボは選手をほとんど補強していない。出ていった選手もいないので、昨季とほぼ同じメンバーで今季を戦っている。だが、チームのヘソであるマウロ・シウバが、また一つ歳を重ねたことは事実。戦力は良く言って横ばいだ。ベスト8、ベスト8、ベスト16、ベスト4。CLにおける過去4年の戦績を考えれば「チャンス到来! 今年こそは……」の勢いで、戦力補強を積極的に行い、頂点を目指してよさそうなものだが、実際は後退もやむなしの姿勢でいる。チャンピオンズリーグでの好成績は、巨額なボーナスを手にしたことを意味するので、デポルが金欠に苦しんでいるわけでもない。第3者にはとても歯がゆく見える。不安は早くも、オリンピアコスをホームに迎えたチャンピオンズリーグの第1戦に形となって現れた。ホームで0−0は、 敗戦にも等しい結果である。
あえて山頂を極めようとしていない様子だ。現場の監督や選手はともかく、少なくともレンドイロ会長の思惑は、そうであるに違いない。氏は16歳でローラーホッケーチームの会長に就任して以来、その道一筋に生きてきたいわば「会長のプロ」。現在のデポルは、彼の事業家としての才能なしにはあり得なかったと言われる。その彼が、チーム力アップのためにアクセルを踏もうとしていないのだ。稼いだお金を、クラブの施設や事業に投資していることは、いままでの足跡を見れば明白になる。トップチームの結果より、クラブの質的なレベルアップを優先する政策をとっているというわけだ。クラブの規模、街の特性など を総合的に判断した末の選択なのだろう。
アヤックスにも「計算」が見て取れる。移籍期限ギリギリの8月31日。このチームはズラタン・イブラヒモビッチをユベントスに売り払った。ユベントスといえば、その数日前、モナコで行われた抽選会でCLの1次リーグを同じ組で戦うことが決まったライバルチーム。そこへと自軍のエースを差し出したわけだ。大金と引き替えに。で、ユベントスと初戦(ホーム戦)で対戦したアヤックスは、0−1の敗戦を喫した。
「アレーナ」のピッチに現れたズラタン・イブラヒモビッチに、スタンドからブーイングは湧かなかった。メンバー発表の場内アナウンスの際には、むしろ一際、大きな拍手が送られた。このクラブのしたたかな姿勢を見せられた気がした。
育てて売る。この姿勢は、同じくオランダのPSVにも顕著に見ることが出来る。今季、ロッベン、ケズマン、ロンメダールという自慢の3トップを揃って売り払っている。さすがにオランダでも、今季のPSVはダメだろうと囁かれているが、それでもアーセナルとの初戦(アウェー)では善戦健闘。0−1で敗れたが、有名選手を揃えたアーセナルをあたふたさせる姿に、このチームの真髄を見る気がした。
クラブにはそれぞれ、環境に応じたいろんな特色がある。何が何でも勝ちに行かなければならないチームは、全欧州を見渡しても10チームあるかないか。思いのほか数少ない。大抵は「計算」を働かせながら戦っている。日本にはいまだ根付いていない大人っぽいカルチャーだ。実際、Jリーグに加盟する28チームの中に、デポルやアヤックスやPSVのような計算高いチームは見当たらない。
そうしたいろいろな思惑が絡む欧州サッカー界の中で、レバークーゼンに0−3で大敗したマドリーの姿は、より間抜な存在としてデフォルメされる。銀河系軍団とは良く言ったもので、一人勝手にどこか遠い宇宙へ行ってしまった滑稽な集団に映る。同時に、その日本ツアーに相変わらず狂乱する日本人は、いったい何なのかとも思う。子供っぽくみえて仕方がない。Jリーグの健全な発展を願う姿勢とそれは、相反する方向にあるベクトルだと僕は思う。
欧州クラブシーンは現在、レアル・マドリーのみならず、おしなべてビジネス化の道を歩むが、その方法論は様々だ。結果を欲して突っ走るばかりが能じゃない。お金に目がくらみ、クラブとしてのアイデンティティを喪失させてしまったチームというのは、思いのほか数少ない。大抵のクラブは舞い上がることなく、一方でそれぞれの「色」を保つことを忘れずにいる。チャンピオンズリーグは、銀河系の彼方で起きている夢物語にはあらず。きわめて現実的な出来事だ。ピッチの上戦いだけではなく、その裏に見え隠れする大人っぽい姿勢にも目を凝らしたい。