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トレード戦線 「勝ち組」2チーム 

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李啓充

李啓充Kaechoong Lee

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photograph byGetty Images/AFLO

posted2007/08/06 00:00

トレード戦線 「勝ち組」2チーム<Number Web> photograph by Getty Images/AFLO

 メジャーでは、グラウンドの中だけでなく、外での「闘い」もペナントレースの行方に大きな影響を与える。特に、7月31日のトレード期限前数日は、各チームのGM達にとって「最大の腕の見せ所」と言ってよく、ライバル・チームの動向をにらみながら、熾烈な闘いが繰り広げられることが恒例となっている。

 このトレード期限、ペナントレースが3分の2を終えた時点に設定されているため、プレーオフ進出をねらうか諦めるかが、トレード市場で「買い手」になるか「売り手」になるかの分かれ目となっている。通常、「買い手」となったチームが即戦力選手の獲得をめざす一方で、「売り手」となったチームは年俸の節約や若手有望選手の獲得をめざす、というのが基本のパターンである。換言すると、目先の幸福(即戦力)を将来の幸福(有望選手)と引き替えることが、取引(トレード)の基本となるのである。

 さらに、トレード戦線での勝敗が特に重要な意味を持つのは、同一選手の獲得をライバル・チーム同士が競う場合である。自分が獲得することの「プラス」と、相手が獲得できないことの「マイナス」とで二重の効果が生じるため、グラウンド外での「闘い」の結果が、ペナントレースの帰趨を決しかねない。昨季、ヤンキースとレッドソックスがボビー・アブレイユ(当時フィリーズ)獲りを巡って直接争ったが、アブレイユ獲得戦に勝利したヤンキースがペナントレースに圧勝したのはその好例である。

 しかし、最近、期限直前の大型トレード成立は減少傾向にある。というのも、90年代半ば以降、戦力の均衡化とワイルドカード制採用の相乗効果で、プレーオフ進出をめざすチームの数が以前よりも増えたからである。その結果、「売り手」となるチームが減り、即戦力選手という商品の「供給」が限られるようになったのだから、大型トレードが成立しにくくなっているのも当然だろう。逆に、大型トレードが成立しにくい状況になっているからこそ、成立させるには、いっそう、GMの手腕が物を言うようになっているのである。

 さて、今季のトレード戦線の戦績だが、ナ・リーグ「勝ち組」の筆頭は、レンジャースの主砲マーク・テシェラ、ロイヤルズの抑えオクタビオ・ドーテルを獲得したブレーブスだろう。現有戦力をほとんど減らさずに、チームの二大弱点を補強したのだから、14年連続地区優勝の実績を誇るジョン・シュアホルツGMの手腕は光った。

 一方、ア・リーグ「勝ち組」の筆頭は、レンジャースから大クローザー、エリック・ガニエ(2003年サイヤング賞受賞)を獲得したレッドソックスだろう。しかも、ライバル、ヤンキースと直接争っての獲得成功だから、その効果は絶大である。もともと救援陣の防御率はダントツのメジャー1位、岡島秀樹、ジョナサン・パペルボンの抑え2枚看板にもう1枚を加えたのだから、「鬼に金棒」といってよい。

 かたや、ガニエ獲りに負けたヤンキースだが、めぼしいトレードは、昨季からの酷使がたたって投球から切れ味が消えた救援投手スコット・プロクターを、ドジャースの控え内野手ウィルソン・ベテミットと交換しただけと、トレード戦線では完敗に終わった。前回紹介した有望若手投手達をメジャーに登用することで戦力アップをねらう作戦だが、はたして吉と出るか凶と出るか…。

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